真実を伝えます

≪ 第29話「工学生命体は販売致しておりません」

第30話「真実を伝えます」

 セア・エットはまだ事態が掴めずに辺りをキョロキョロ見回している。
「落ち着いて、セア・エット。ここは私の家よ。もう安心だから」
 私は手の平でセア・エットを優しく包んで胸元へ引き寄せる。
「私、クルマロ君に言われた通りに、檻を出たらすぐにベッドの下に飛び込んで、それから輪っかをくぐったら、いきなり目の前にイェラさんがいて …… 」
 セア・エットは何度も首を傾げて何が起こったのかを、必死に頭で整理しようとしている。
「あの輪は転送装置なの」
 私は指先でセア・エットの頭を撫でながら言った。
「転送装置?」
「この2つの輪っかはね、互いにどれほど距離が離れていても空間がつながっているの。つまり片方の輪から飛び込めば、もう片方へ瞬間移動できるのよ」
 ただし、フルパワーに充電しても稼働時間はわずか数分しかない。交通革命を予感させる新技術だけれども、実用にはまだまだ時間がかかりそうだ。ある仕事の報酬としてガラモイから試作品を譲ってもらったのだ。技術を流出させないという約束だったので、これを売ることはできない。

「セア・エットは自由になったのねー! わーい、わーい!」
 彼女は私の手から片足でぽんと跳躍すると、嬉しさのあまりそこらじゅうを飛び回った。
「セア・エット・ダンス♪ セア・エット・ダンス♪」
 今度は踊りだしたわ。
 セア・エットは8姉妹の中でも一番踊りが好きな子だった。

 しかし昂揚気分が収まると、一転して悲しい表情になる。
「姉様たちは散り散りに売られていったのー。えーん、えーん。セア・エット、姉様たちに会いたいよー」
 私は泣きじゃくるセア・エットを胸に抱いて慰める。
「そうだ! パラナは!? パラナとネイネイスはどうなったの!?」
 セア・エットが私を見上げて必死に問うので、胸がずきりと痛む。
 ネイネイス(夜明け)とは、これから生まれてくる(あるいはもう生まれたかもしれない)9番目の子に与えられた名前だ。

「遠い世界へ旅立ったわ」
 私は目を逸らせてそう答える。
「やっぱり捕まって売られちゃったの!?」
 セア・エットが絶望的な表情で叫ぶ。
「いいえ。パラナは自由の身よ。卵も無事。でも … 誰も辿り着くことのできない世界へ行ってしまったの」
「セア・エット、探すよ! どんなに遠くても探しに行く!」
 セア・エットは訴えるような眼差しで私をじっと見つめる。
 私はゆっくり大きく首を横に振る。
「宇宙の果てよりも遠い所に行ったのよ。私が …… 杖で門を開いて異世界へ送り出したの。他に方法がなかったから。ごめんなさい、セア・エット、本当にごめんなさい!」
 私はセア・エットを抱きしめて謝ることしかできなかった。
 私はかけがえのない姉妹の絆を断ち切ってしまったのだ。

「1度でいいから、ネイネイスに会ってみたかったよお」
 セア・エットは泣きながら小さな手で私の胸を何度も叩く。
「ごめんね、本当にごめんね」
 私はそう繰り返すことしかできなかった。
 でもしばらくして、セア・エットは袖で涙をぐいと拭うと、
「イェラ、ありがとね」
 私を見上げてそう言ってくれた。

「 …… セア・エット?」
「ハンターたちに捕まって売られるより、たとえ異世界でも自由に暮らしたほうがいいに決まってる。孵化したときから檻の中だったら、ネイネイスだってかわいそうだもん。だから、イェラ、卵を守ってくれて、ありがとね」
「 …… セア・エット」
 私は頬に伝う涙を伝わせたまま、セア・エットの澄んだ瞳をじっと見つめていた。

 ネイネイス …… 『夜明け』と名づけられた9番目の妖精は異世界でどんな人生を歩むのだろう。寝台に並んで横たわり、そんなことを話しているうちに、いつの間にか眠りに誘われていった。

 ≫ 第31話「町中を捜索しています」

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