都政館で一触即発!?

≪ 第19話「市民の怒り」

第20話「都政館で一触即発!?」

 どうせ店は暇なので、午後になると入口に「閉店中」の札を掛けて、丘を登って都政館に行ってみた(ようするに野次馬したかったのです)。

 相も変わらず、群衆は城塞のような都政館を取り囲んで、あれやこれやと叫んでいる。
「都政官、出てこい!」
「俺たちを馬鹿にすんじゃねーぞ!」

 叫んだからって、何も解決するわけじゃないのに。
 私はものすごく他所事な感想を抱きながら様子を眺めていた。

 ところが、少し経って事態が一気に緊迫する。丘の麓のほうから低い断続的な機械音が鳴り響いたので、何事かと思って見ていると、とんでもないものが現れたのだ。
「じ、重装歩兵!?」
 驚き半分、呆れ半分の気持ちを込めて叫ぶ。
 重たい機械鎧に身を包んで丘を滑り上がって来た2人の兵士が、空気を引き裂くようなブレーキ音とともに停止する。

「コヘズニとプタベクじゃねーか!」
「よーし。都政館に思い知らせてやれ!」
「一発、撃ち込んでやれ!」
 感情の昂った群衆は口々に快哉を叫んだ。

 市場(いちば)の兵士!?
 馬鹿じゃないの!? 都政館も都政館なら、市場も市場だ。
 月世界の人たちって、どうしてこうなのかしら!?
 たまには話し合いで解決しなさいよ! 私は呆れて頭を振った。

 当然のことながら、さすがの都政館も静観していられない。
 コンコウ砦から部隊を出動させてきた。
 市場も増援を送って数を揃える。
 互いの重装歩兵隊が睨み合い、まさに一触即発。
 だめだわ。内戦勃発だ。しかもこんなくだらない理由で。
 私の短い平穏な日々よ、さようなら。

 しかし、この騒ぎを鎮めたのは、意外にも市場の側だった。
 1人の少女が …… イクィタ・ヴェコが颯爽と現れて、市場の兵士たちを叱責したのだ。
「馬鹿な真似はやめて、すぐに武装を解きなさい!」
「だけど、ヴェコ様 …… 」
 兵士の1人が何か言おうとするけれど、
「いいから、とにかく降りろ!」
 イクィタが鎧を思い切り蹴飛ばすと、シューと軋む音と同時にハッチが開いて、若い兵士たちが下りてくる。
「なんでそう短絡的なのかしらね。呆れてものも言えないわ」
 イクィタは腰に両手を当てて、子供を叱るような口調で言った。全く同感だ。兵士たちは「だってよお」とか言いながら、気まずい顔して頭を掻いている。市場側が武装を解いたことで、都政館側のコンコウ砦の兵士たちも引き上げていく。
「はい、あなたたちも、今日はこれでもう解散!」
 さらにイクィタは群衆のほうへ大きな身振りで「帰れ」と促す。あれほど殺気立っていた群衆も、意外なほど素直になって、列をなして丘を下りて行く。
「たいしたものねえ」
 私は妙に感心して、そんなことを口にした。
 イクィタがふとこちらを見たので、私たちは互いに数秒間ほど目を合わせた。

「この国の人じゃないわね?」
 彼女にそう問われて、私はゆっくりと頷いた。
「あなた、戦士でしょう?」
 彼女がずばりとそう訊いたので、さすがの私も驚いた。
「どうして?」
 目をぱちくりして問い返すと、
「訓練を受けた人特有の、隙のない立ち方してるもの。普通の人はそんな立ち方しない。うちの兵士たちなんて、あなたに比べればひよっこ同然ね」
 イクィタはそれだけ言うと「じゃあね」と手を振って丘を下りていった。

 いやだなあ。知らず知らずのうちに、立ち姿までそんなふうになってしまっていたのか。これからは普通の人の仕草をもっと勉強して、はやく普通の人になろう。そんなことを思いながら、私は店に戻った。 ≫ 第21話「メテバ銀行で大騒ぎ」

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