城の最上階に昇ります

≪ 第60話「城の歴史」

第61話「城の最上階」

 中庭に面した窓から射し込む光を瞼に感じて目を開ける。
 私はゆっくりと身を起こし、寝台から抜けて窓辺に立った。
 胸壁に囲われてはいても、中庭に浮かぶ光球が時刻に応じて明るさと温度を変えるので、1日のリズムを感じることはできる。

 私はそっと窓を開けて、大きく深呼吸する。
「んん? もう朝?」
 サレカさんが枕に乗った頭をこちらに向けて、薄く目を開けて寝ぼけたような声で訊いた。
「あ、ごめんなさい。起こしちゃった?」
「ううん。明るくなったから自然に起きた」
 サレカさんは上体を起こして両腕を目いっぱい伸ばす。
「そういえば、この部屋、カーテンがないね」
 サレカさんがこちらを見ながら、まだぼんやりとした口調で言った。
「ええ。もとからなかったんじゃないかしら。向こうからは見えないようになっているし、通す光の量も調節できる窓よ」
 私はそう答えながら窓を閉めて、窓枠の横に浮いている画像に指を触れて明るさを落としてみせる。

「メモア、まだ起きないのかな」
 サレカさんは隣の寝台に眠るメイモアさんの寝顔を覗き込む。
「もう少し寝かせてあげましょう。一昨日から色々なことがあって、疲れているのよ。少し散歩してお城の構造を把握しておきましょう」

 私たちは個室から出て、エレベーターに乗って最上階(地上15階)まで昇ってみた。エレベーターを降りると、中央に据えられた大きなテーブルと椅子以外にほとんど何もない円形広間だった。壁際に扉も見当たらない。私は昨日外から見た、上端の尖った城の外観を思い出しながら、この階はこの場所しかないのだろうと理解した。広間には、すでに先客が2人いて、熱心な口調で何かを話し合っていた。
「ヤクトビ、何をしているの?」
 私が声をかけると、ヤクトビがこちらを振り向いた。
「ふん。ここから景色を眺められないかと思ってね」
 ヤクトビはそう言って肩をすくめる。
「景色?」
 サレカさんは不思議そうに窓1つない部屋を眺め回す。
「ここは城の監視所だったんですよ」
 ヤクトビの傍らにいた中年男性が代わりに答える。
 確か昨日中庭で、熱心に端末で城の立体画像を見ていた人物だ。
「監視所?」
「ええ。おそらく監視用大型スクリーンが映し出せるはずなんですけどね。とはいえ、起動方法を知らなきゃどうしようもないわけで」
 彼は髪の薄くなりかけた頭を掻きながら苦笑した。

 確かに、こちら側からでも外の様子を知ることができたら、多少はやるべきことが見えてくるかもしれない。
「ねえ、この城の頭脳は …… もう生きていないの?」
 ふと思いついたことを口にした。
「い、いや。さすがに、それは …… とうの昔に眠ってしまっているでしょうなあ。城の『声』を聞いた者がいれば、観光ガイドにも載るでしょうし」
 男はそう言って「ははは」と笑ったが、
「それにしても腹が減った」
と情けないことを言って肩を落とす。

 このままここに居ても、今のところ収穫もなさそうなので、サレカさんと私は地上2階の部屋に戻ることにした。部屋の扉を開けると、下着姿のメイモアさんが昨晩支給されたダサい服に袖を通しているところだった。
「どこに行ってたの?」
 メイモアさんの声音には少し元気が戻っているように感じた。
「てっぺんまで行ってみたの」
 サレカさんが上を指差して答える。
「なにか発見があった?」
「なーんにも」
 サレカさんは首を大きく横にふる。
「そう」
 メイモアさんが小さな溜息を吐く。
「とりあえず朝食にしましょうか」
 私が提案すると2人は頷いた。
 昨晩の夕食の配給時に、翌日の朝食もまとめて支給されていた。
 だから同じものを食べることになる。
「せめてスープがあれば」
 メイモアさんが力なく言って、携帯食を少し齧る。
「あれ? 味が違ってるよ?」
 サレカさんは少しだけ嬉しそうに言う。
「あ、本当。昨日のは …… よくわからない味がしたけど、これは鶏肉味ね。案外、美味しいわね」
「昨日食べたのはカメ味だよ」
 サレカさんがそう答えた。
「 …… 」
 聞かなきゃよかったわ。私はいつだったか、市場で見た手足をバタバタさせていた亀の姿を思い出して溜息を吐いた。

「あれ? イェラ、それ残すの?」
 半分だけ食べて、残りを保存ケースにしまっている私の姿を見ながら、サレカさんが不思議そうに訊いた。
「ええ。この先、食事の提供が止められることもあるかもしれないから、少しずつ蓄えておいたほうがいいと思って」
「なるほどねー。私、何も考えずに全部食べちゃったよ」
「私も半分残すことにするわ」
 メイモアさんがそう言うと、
「 …… メモアは美味しくないから、もう食べたくないだけでしょ」
 サレカさんが呆れたように言った。

 今度は三人で地下8階まで下りてみることにした。
 ところが、エレベーターは地下7階までしか行けなくなっていて、仕方なく地下7階から階段で下りようとしたところ、ぬっと背の高い男が立ち塞がっていて、
「ここより下は立ち入り禁止だ」
と無愛想な口調で告げた。
「てことは、やっぱり地下8階に何かあるんだね」
 サレカさんがそんなことを言うので、男のこめかみがぴくりと動く。
「何もない! さっさと消えろ!」
 男は威嚇するように怒鳴って、私たちを追い払おうとする。
 …… そんな態度で「何もない」はずがないことは誰でもわかるけど、「罰として夕食抜きだ!」とか言われても困るので、まだ何か質問したそうなサレカさんの腕を引張って、その場を去ることにした。

 そのあと、城内のあちこち歩き回っていると、地上4階の廊下でルクアトブたちと遭遇した。
「あんたたちも追い返された?」
 パラヤが尋ねる。
「ええ。彼らは地下8階を捜索されることを嫌っているようね」
「こっちはさ、ゴドレバのやつが見張りの男に飛び掛かろうとして大変だったんだ」
 パラヤが親指で背後のゴドレバを指す。
「だってよお! 頭にきたからよお!」
 ゴドレバが拳を握りしめて主張した。
「そのあと、ルキが『通してくれー♪』とか歌いだしたんだ」
 パラヤが今度はルクアトブのほうを横目で睨む。
「俺の歌を聞けば、どんな人間でも気持ちが動くはずなんだよ!」
 ルクアトブが抗議する。
「ぴくりとも動かなかったよ。余計に怒らせただけじゃん」
 パラヤが「馬鹿じゃないの?」とでも言いたげにルクアトブを睨んだ。
 …… 本当に勘弁してちょうだい。「連帯責任」とか言われて、私たちまで食事を抜かれたら、たまったものじゃないわ。

 ≫ 第62話「人型機械」

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