お嬢様が家出をしました

≪ 第50話「父親の怒り、彼氏の逃走」

第51話「お嬢様が家出をしました」

「昨日の晩、メモアはとうとう家に帰らなかったよ」
 サレカさんが私の顔をじーっと睨みながらそう告げた。
 なんなの、その目は? 私のせいだって言いたいわけ?
「じゃあ、ルクアトブの所に泊まったんじゃないの?」
 私が軽い調子でそう言うと、
「メモアは、そんなふしだらな子じゃないよ!」
 サレカさんが抗議の声をあげる。

 ふ、ふしだら? 私が言葉を返しあぐねていると、サレカさんは
「でも、おじさんも『あんなふしだらな娘は金輪際うちの敷居を跨がせるな!』て、ものすごく怒ってる」
「ルクアトブは今どこに住んでるの? 市場の共同住宅?」
「ちがう。とっくの昔に家は出て、二都のアパートで暮らしてるって」
 サレカさん自身もルクアトブとは最近知り合ったようで、あまり事情に詳しくないようだ。
「じゃあ、そこに行ってメイモアさんを連れ戻したら?」
「そこに居たら、やっぱり泊まってたってことになるでしょ」
「そりゃそうよ」
「そしたらメモアは、やっぱりふしだらな娘ってことになっちゃうよ!」
「 …… もう、ふしだらはいいから …… 今日は休日だけど、明日の朝にはメイモアさんもお役所に出勤してくるでしょう」
「そうだけどさ。やっぱり気になるしさ」
「じゃあ、どうしたいの?」
「イェラ、一緒に二都までついて来て!」
 冗談じゃないわよ。
「世間はお休みですけど、当店は営業しておりますから」
 冗談交じりに答えてみるけれど
「どうせ、お客なんてほとんどいないでしょ。とにかく来て!」
 またしても、サレカさんは私の腕を引張って外へ連れ出したのだ。

 サレカさんが店の前に止めていた車に乗り込んで、国都の南地下道路へ向かう。
「この車、サレカさんの?」
「ううん。姉さんのだよ。緊急だから黙って借りた」
 サレカさんは車を自動運転に任せて、背もたれに背中を預けている。
 アプサス(ナビゲーション機能)の画像を見ながら「これからどうしよう」という顔をしていた。

 トンネルを抜けると、第二都スクリタの市街地の風景が広がる。
 スクリタは小さな商業都市。各種商店や娯楽施設が大通りに沿って整然と並ぶ。ブティストクプとはまた一味違った雰囲気の町だ。南東の外港ヤチェダから直通の地下道もあり、同盟諸国から来た観光客も多い。中央部が丘陵地帯で、麓に沿う環状道路が丘を取り囲んでいる。丘に囲まれた谷間に居住区が並ぶ国都とは対照的な造りだ。

 丘の頂は滑らかに造成されていて、石造りの重厚な建造物が街を見下ろすように聳え立つ。あれが二都の大劇場だ。丸天井に覆われた円形構造物に小さな矩形構造物が寄り添う形。東の麓から丘の斜面を登る大通りが、そのまま矩形の建物に繋がっている。

 しかし、サレカさんの運転する車が丘の南東まで進むと、街並みもずいぶん変わって雑多な生活感が溢れるようになる。高度を落として一軒のアパートの屋上の駐機場に着陸した。私たちはエレベーターで3階まで下りて戸口の前に立つ。サレカさんはひとつ深呼吸すると、戸口の前に浮いた小さな画像に指を触れた。

 しばらく待ってみるけど、返答がない。
「あれ? 留守なのかな?」
 サレカさんが首を傾げる。
「休日だもの。2人でデートにでも出かけているんじゃないかしら」
「そうかもね。どうしようかな」
 まさか、このまま帰ってくるまで待つとか言うつもりじゃないでしょうね。
 そんなことを思っていると、隣の部屋から線の細い男性が現れて、
「誰だい? 見かけない顔だな? ルキの知り合いか?」
 眼鏡の縁に手を触れながらそう尋ねた。
「ええ。彼は留守ですか?」
 私がそう訊き返すと、
「昨日からずっと帰ってないみたいだな。またジャリー・モマーで練習してるんじゃないかな」
「ジャリー・モマー?」
「知らないのかい? 北東にある古い城だよ。今は志をもった人間の活動拠点となっている」
「ありがとう。そこへ行ってみるわ」
 私が礼を言うと、
「ところで、あんたたちは哲学派? それとも音楽派?」
 彼は意味のわからないことを訊いてきた。
 サレカさんと私はそろって目をぱちくりさせていると、
「僕は哲学派なんだけど、ルキは音楽派なんだ。道は違えど、この国を変えたいって思いは一致してる。でも人の道を諭して変えるのがやっぱり一番だ。で、あんたたちは哲学派? それとも音楽派?」
「い、いえ、あの、これで失礼しまーす!」
 私たちは逃げるようにアパートをあとにした。

 ≫ 第52話「ジャリー・モマー」

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