恋とは理屈ではなく、不条理そのものなのです

≪ 第41話「港で始まる恋の物語?」

第42話「恋とは理屈ではなく、不条理そのものなのです」

 港のジンヒッドというお店で2人から事情を聞くことにした。
 ウラット人が経営する、ちょっと大人の雰囲気が漂うお店。
 ここの2階には個室が並ぶ。先ほど行商人と取引した場所だ。

 さて、改めてメイモアさんのお隣に座る彼氏さんを眺めてみると …… なんというか、よくわからない雰囲気の人だった。何となく落ち着きがなくて、肩を小刻みに動かしたり、指先でテーブルをとんとん叩いてリズムをとったり …… 失礼だけど、メイモアさんには全然合わないような ……

「ルキは歌手志望なの」
 メイモアさんが、隣に座るルクアトブの腕に顔を寄りかけながら、そう言った。
「歌手 … 志望?」
 私は「志望」のところにアクセントを置いてつぶやくと、ルクアトブがまた肩を小刻みに動かしながら
「俺、実家は市場の八百屋なんだけど、親父は店を継げってうるさいけど、そんなの全然継ぎたくなくて、やっぱ歌が好きだし、今年はバンドの仲間たち一緒に二都のギル・マジェコーのロック部門に出場するつもりなんすよ」
「 …… そ、そう」
 ギル・マジェコーは二都で毎年開かれる音楽祭だ。そこのコンクールで優勝すればプロの音楽家としての道が開かれると聞いたことがある。
「ねえ、すごいでしょう?」
 メイモアさんが、こちらに身を乗り出すようにして訊いてくる。
「え、ええ」
 予選を通ったらね、と思いながら笑みを返す。純粋培養のお嬢様って、案外こういうのに引っかかりやすいのよね。

「俺、音楽でこの国を変えたいんです!」
 青年はいきなりそんなことを主張した。
「は?」
 私は意味がわからず、口をぽかんと開けてしまう。
「イェラさん、共和国は今のままじゃダメなんすよ! 丘の上とか丘の下とか、都政館とか市場とか、そんなつまらないことでいがみあってちゃ全然ダメなんすよ! 俺、皆にそのことに気づいてもらいたくて、ロックスターになって、歌でメッセージを送りたいんです!」
「 …… は、はあ」
 ダメだ。この青年とは波長がまったく合わない。
 あのニンバンダ以上に合わない。
 はっきり言うと、ちょっとイラッとくるタイプの人だ。

「ルキには志があるのよ。この国の未来を変えようという立派な志が」
 メイモアさんは、すっかりのぼせてしまって周りが見えなくなっている。
「お父様はどう思うかしらね?」
 彼女を現実に引き戻すために、そう尋ねてみたけれど ……
「最初は反対されるかもしれない」
 最初から最後まで終始一貫反対されるわよ。

「でもルキの歌を聞けば、きっとわかってくれるわ」
「は? 歌?」
 私が目をぱちくりさせていると、
「バテアトさんには、俺の歌でメイモアと結婚させてくれるように頼むつもりです。もう歌詞も考えてあります」
 ルクアトブは自信満々にそう言った。
 やめときなさい。殺されるわよ。私は会ったこともないバテアト氏が怒り狂う姿を想像して身震いした。

「イェラさんも聴いてください! 俺のメイモアへの愛の歌を! おお、メイモゥーア~♪ 君の瞳が俺のハートをー♪」
 ルクアトブがいきなり歌い出したので、
「いえ、けっこうよ! またの機会にするわ!」
 私は慌てて制止した。
 もう好きにすればいい。どうなったって知るもんですか。
 この青年もバテアト氏に一発殴られれば目を覚ますでしょう。

 どこかの月の安酒場で流れていた「恋は理屈ではないの。不条理そのものよ」という歌が頭を回った。不条理にもほどがある。

 ≫ 第42話「距離が離れすぎていると使えません」

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