名家の御婦人方を接待しました

≪ 第15話「小さなお客様」

第16話「名家の御婦人方を接待しました」

「いやですよ、あの人は口を開けば愚痴ばかり。私、今度のお茶会は、うんと楽しいものにしたいの」
 キュジー夫人が不機嫌そうに首を振る。
「そうは言ってもね、ペリシパさんを招待しないと、後々面倒なことになりますよ」
 シャーラガ夫人は異議を挟む。
「ふん。あの人にできることと言ったら、町中を回って人の悪口を吹聴するぐらいでしょうよ」
「ハシュテリク夫人はお呼びしますか?」
 バテアト夫人が控えめに尋ねる。
「まあ。何をおっしゃるの。冗談じゃありませんよ。わたくし、お茶会をあの人の自慢大会にするつもりは毛頭ございません」

 お店の二階応接間にて。3人の暇な御婦人方は、来週のお茶会に誰を招待するかという、どうでもいいようなことを真剣に話し合っている。
 私はシャーラガ夫人の碗に2杯目のお茶を注いだ。
「そういえば、リペンダさん。先日は娘がお世話になったそうで」
 シャーラガ夫人が振り返って言った。
「どういたしまして。どうぞ、イェラと呼んでください」
 私は軽く首を傾げて微笑み返す。
「それにしても、マリタ語がお上手ですこと」
 キュジー夫人は感心して言った。
「はい。商売繁盛を願って猛勉強いたしました」
 飾らず率直に答えておく。

「タンツァの方でしょう? 生まれは貴族?」
 シャーラガ夫人が尋ねる。
「よくおわかりですね」
「発音でなんとなく。どうりで気品のある方だと思いましたわ」
 この人が私の過去を知ったらなんと言うのかしらね。
「貴族といっても、小さな国でしたから」
「共和国の住み心地はいかがかしら」
 バテアト夫人が尋ねる。
「タンツァでは領国同士の争いが絶えず、その悪影響は市民にも及び、人心は荒れておりました。それに比べると、コビ・マリタは、小さいけれど、国家としてきちんとまとまっています。暮らしやすさというのは富だけでは計れません」
 全くの本心から、そう答えた。
「そうね。ここしばらくは内戦もないから、比較的落ち着いているわね」
 バテアト夫人は椀を受け皿に置き、どこか遠い目をする。

「そういえば、お宅のメイモアちゃん、あのイクィタって子に酷い目にあったそうね」
 キュジー夫人が話題を転じて、バテアト夫人のほうへ身を乗り出す。
「いえ。その件は娘にも落度がありましたから」
 バテアト夫人は、この件に触れられるのが迷惑そうだ。
「いいえ。メイモアちゃんはちっとも悪くないわ。悪いのは、あの生意気な娘です。そうに決まってます」
 キュジー夫人は五つ目のチョコレートを口に入れた。
「討論が白熱し過ぎただけですわ。当人同士のことですから」
 バテアト夫人は冷静に答えた。
「それにしてもメイモアちゃん、お勤めしてからも学問を続けるなんて偉いわね。いえね、この前の休日、本を抱えて颯爽と学堂へ向かうメイモアちゃんに、ばったり会いましたのよ。いつの間にか、すっかり大人の女性になられて。どこに出しても恥ずかしくない、気品のある立派な貴婦人でしたわ」
 キュジー夫人は小太りの体を揺らす。
「それはどうでしょうか。あの子にも色々な問題がありますから」
 バテアト夫人は、俯き加減に答える。
「フェリモアさんは、いつも御謙遜なさるけど、私たちの間でなら、素直に子育ての手柄を自慢してもよいのではないかしら」
 キュジー夫人が少し拍子抜けしたように言う。
 バテアト夫人は曖昧に笑うだけだ。

「そういえば、赤毛のサレカちゃん、元気にしているかしら」
 シャーラガ夫人が、どことなく嬉しそうに言う。
「ええ。うちによく来ますから。いつも楽しそうに娘と過ごしていますわ」
 バテアト夫人もつられて嬉しそう。
「あの子は、いつも明るくていいわねえ。メイモアちゃんに比べると、まだまだ子供という感じがするけれど、そこがまた無邪気で可愛らしいわ」
「サレカさんなら、当店によくいらしていますよ」
 私も軽く会話に加わってみる。
「まあ、そうでしたの? サレカちゃん、面白い子でしょう?」
「はい。とても感じの良いお嬢様です。話しているだけで、こちらの気分まで明るくなってきますわ」
 私が答えると、3人は揃って、うんうん、と頷いていた。

 飾り棚に置かれた小鳥の置物が滑らかな動作で翼を羽ばたかせ、ちいちいと鳴いた。1階にお客さんが来たという合図だ。私は「失礼」と会釈して、応接間からバルコニーへ出ると、階段を駆け下りて店舗へ急ぐ。お客さんの応対を終えて戻ると、御婦人方の会話は、何やら物騒な話題へ発展していた。

「近々、あの子は市場(いちば)の組合を扇動して、革命を起こすという噂ですよ」
「まさか」
 バテアト夫人は口に手を当てて笑う。
「本当ですよ。信頼できる筋から聞いた話。間違いないですわ」
「んまあ、恐ろしい」
 シャーラガ夫人は両手を広げて驚いて見せた。
 結局3人の御婦人方は、お茶をたっぷり飲んで、お菓子をたくさん食べて、喋りたいだけ喋った挙句、大して値の張らない雑貨をいくつか買っただけで帰って行った。
 接待ずくめの1日を終え、どっと疲れてカウンターに突っ伏した。
 …… お店を閉めて、ご飯作らないと。 ≫ 第17話「異常発生です」

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