人相の悪い男たちがいました

≪ 第36話「車で国都に帰りましょう」

第37話「人相の悪い男たちがいました」

 国道3号線北東方面から国都ブティストクプに入る。すでに天空ドームに映し出された疑似太陽は傾いて西の丘に沈みかけ、町を鮮やかな夕暮色に染めていた。
「きれいねー。セア・エット、まだこの町を飛んだことないのねー」
 セア・エットは車の窓に額をくっつけて外を眺めるので、私は慌てて彼女の襟首をつかんで引き離す。
「お外、見たいよー」
 セア・エットは手足をばたばたさせて抗議する。
「誰かに見つかったら大変! 家に着くまで大人しくしていなさい!」
 それから急いでエセキの丘まで車を飛ばした。すると店の前に見知らぬ2人の男が立っていることに気づいた。お客さん、という雰囲気ではなさそうだ。男たちはシェムタルと何かを言い合っている。
「ちょっと我慢しててね」
と言ってセア・エットをバッグの中に放り込んで車を店の前に着地させ、車を降りるとゆったりと2人に近づき、
「何か御用?」
と笑顔で話しかけた。

「へへ。御用ってほどのものでも、ないんだけどよ」
 あまりまっとうとはいえない雰囲気の男が薄ら笑いを浮かべる。
「この中古ロボットに、小さなヤークルを見なかったかって、訊いてたとこなんだ」
 もちろんシェムタルには「セア・エットのことを誰かに漏らしたらスクラップにするわよ!」ときつく言い渡してあるので、口外することはないだろう。
「あんたが店主かい?」
 もう1人が不躾な視線で私をじろじろ眺めながらそう言った。
 マシュカンは、やはり私を疑い始めている。それも当然だろう。
 セア・エットを逃がす動機があるのは、この町で私だけだ。

「もしかして家にヤークルを匿ったりしてねえだろうなあ」
 男が凄むような口調で言って、一歩こちらに近づいた。
「残念だけど、ヤークルなんて家にはいないわ。どこかで見かけたらお知らせするので、今日のところはお引き取りください」
 にっこり笑ってそう答えたけれど、
「俺たちもいい加減にヤークル見つけて持ち帰らないとならねえんだよ。シッパウワ様のご機嫌も日に日に悪くなる一方だしよ」
 知るもんですか、そんなこと。

「ちょいと、その車の中を確認させてもらっていいか?」
 男の1人が何かを嗅ぎ付けるような顔をして車のほうを指差した。
「お断りするわ」
と、あくまで笑顔を崩さずに柔らかに応じる。
「見せられねえものでも、あるってのか!?」
 そろそろ辛抱の限界にきたという表情で、また一歩こちらに近づくので、私は刀の柄に手をかける。万が一に備えて近頃は外出時に帯刀するようにしていた。
「ずいぶんと物騒なものを持ち歩いているじゃねえか」
「治安のいい町だってのによ」
 男たちは揃って笑い出す。あんたたちがうろつくようになってから、すっかり町の雰囲気が悪くなったわよ、と心の中で罵った。
「俺たちだって力ずくってのは好きじゃないんだが、ものわかりの悪いやつには、ちょっと痛い目をみてもらわねえといけねえこともある」
 そう言って男たちは腰の銃に手をかける。

「抜くな! 抜いたら死ぬわよ!!」
 私が本気の口調で叫ぶと、その声に込められた凄みだけで男たちの動作が止まる。たとえ脅しであっても銃を抜けば、その瞬間にこちら側の正当防衛が成立する。自分たちがどれだけ危険なことをしているのかわからないの!?

「な、なんだ、そんな刀ひとつで俺たちに勝てるつもりか?」
 男の1人が強がってそう言うが、その声は震えている。この卑劣な男たちは弱い者を痛めつけたことがあっても、本格的な戦闘経験がないことは隙だらけの動作を見ればすぐにわかる。一瞬で勝負がつくだろう。こんなのは戦いでもなんでもない。斬っても後味が悪いだけだ。だから抜くな。心の底からそう願う。
「よ、よせ。この女の目つき、普通じゃねえぞ。かなりやばい女だ。ま、まちがいねえ」
「き、今日のところは勘弁してやらあ」
 下っぱ悪人に定番の台詞を言い捨てて、彼らは退散した。

 ≫ 第38話「まだ捜すの?」

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