ダサい寝間着、トンネルと輸送システム、国都通信

 SF小説『不思議なお店』本編でカットした部分です。

ダサい寝間着

 サレカさんは私をじっと見つめて
「イェラ、寝間着を着ないの?」
と眠そうな声で訊いた。
「 …… やめとく。このまま下着で寝るわ」
 私はどうしても、支給された寝間着に着替えるつもりになれなかった。下着もダサかったけれど、それはもう言っても仕方ない。
「 …… イェラ、食事にはひとつも文句言わないのに、妙なところにこだわるね」
 サレカさんは少し呆れたような口調で言った。
 誰にだって譲れないものはあるのだ。旅暮らしの時も人一倍服装には気をつかってきた。もちろん、常に恋人が傍にいるということもあったけれど、とにかくそういう習慣が身についてしまっている。
 私は下着のまま身を横たえて布団を被って目を閉じた。
 

トンネルと輸送システム

「ええ。モマ-は迷ったけれど、兵たちを飢えさせるわけにはいかないから、背に腹は替えられず、アーニグの王を信用してアーニグと結ぶ地下補給路の建設に着手した。こちら側と向こう側を機械で同時に掘り進めて、補給路は1年ほどで完成したわ」
「考えたわねえ」
 私はメイモアさんの博学ぶりに感心しながらも、話の中のあるキーワードを思い出して「あ!」と声をあげた。
「どうしたの?」
 サレカさんが目を丸くする。
「港都への補給路って、今でもあるの!?」
 メイモアさんのほうに身を乗り出して尋ねる。
「それは城のどこかにあると思うけど、穴の直径は腕幅ぐらいじゃないかしら。もっと狭いかもしれない。あくまで物資を自動で送り出すための通路だから」
「 …… そ、そうね。それはそうよね。防備のことを考えれば、わざわざ人が通れるようなトンネルを掘るわけないわよね」
 私は自身の短慮を恥じて思わず頭を掻いてしまう。
 …… いえ、でも待って。なにか、なにかありそうよ。
「それを使えば外と手紙のやりとりができるんじゃないかしら?」
「 …… 輸送システムが動けばね。今でも機能するかわからないし、そもそも、あの男が制御室を押さえている限りはどうしようもないわ」
「そ、そうよね。でも、なにか手がありそうな気がするのよ」
 喉元まで出かかっているけど、どうしても出てこない。そんな状態で寝床に入ったものだから、気になってろくに睡眠がとれないまま翌朝を迎えてしまった。
 

国都通信

「ちょっと、こっちに来てちょうだい」
 私は、辺りにザナシーやその手下たちが居ないことを確認して、皆を広間に隣接する小部屋に入れて扉を閉めた。それから小さなカード型端末を取り出して起動させる。
「どうして!?」
 サレカさんが驚いて私の顔を見つめる。
「軍用の通信装置よ。放送用通信に使われる超空間とは別の空間を経由させて電波を拾っているの。高価だけど、それほど珍しい装置じゃないわ」
 説明しながら映像を宙に映し出すと、すでに緊急特別放送が流れていた。
「国都通信です。予定を変更して緊急ニュースをお伝えします。17 時 28 分頃、二都スクリタの古城ジャリー・モマーの橋が失われ、通行手段を絶たれました。繰り返します。二都スクリタの古城ジャリー・モマーの橋が失われ、観光客が。二都の都政館の発表によりますと、城の内部では …… 」
 

車で脱出?

「俺は車で来たから、それで脱出させてもらうぜ!」
 1人の若者が叫んだ。この城を車で訪れることは禁止されているはずだし、私たちも橋の向こうに駐機させて来たけれど、一部の活動家の中には勝手に車で乗りつけて来た者もいるようだ。活動家の人たちって、どうして順法精神に乏しいのかしらねと、私は妙に場違いな感想を抱いていた。
「自分だけ逃げようってのか!」
「卑怯だぞ!」
 そうはさせじと人々が若者を取り囲む。
「そ、外から助けをよんでくるんだよ!」
 若者はその場しのぎな言葉で応じる。
「こんなやつに付き合ってる暇はないぞ! とにかく地下8階に行って、その下の階へ行く方法を見つけるんだ!」
 取り囲む人々を押しのけて車に乗り込もうとしていた若者は立ち止まり、茫然となってザナシーを見つめる。

 バテアト卿の統括する軌道防衛軍ではなく、陸軍と市場の部隊が中心になって救出作戦を指揮することになる。私はこの国の陸軍トップが誰かは知らないけれど、有能な人物であることを願うばかりだ。
 

サレカさんが思いを察してくれました

「いいんじゃない? そんなに喧嘩がしたいなら、馬鹿な男同士で好きなだけ殴り合ったら?」
 私が溜息をついて肩を竦めながら不干渉を宣言したので、2人は本当に猛然と喧嘩を始めた。
「ちょっと、イェラ! なんで止めないの!?」
 サレカさんが抗議の声をあげる。
「放っておきなさいよ。こんな “戦闘ごっこ” なんて、止めるのもバカバカしいわ」

「メイモアさんの気持ちはよくわかったわ。その気持ちはお父様に一度はきちんと伝えたほうがいいと思う。でも、ご家族も召使も皆、メイモアさんを心配しているから、とにかく帰って頭を冷やしましょう」
 私はそう言って彼女の肩に手を添える。
「帰らないって言っているでしょう!? あんな父親のいる家に帰るぐらいなら、ここでずっと暮らしていたほうがましよ!」
 彼女は私の手を振り払う。
 そして私は無意識に彼女の頬を軽く打ってしまった。
「あ!」
 それを見たサレカさんの口から小さな悲鳴がもれる。
「甘えるのもいい加減にしなさい!」
 突然の剣幕に、メイモアさんもただ目を見開いて無言で見つめ返すだけだ。
「イェラ …… 」
 サレカさんが、まるで私の思いを察したかのように、私の腕に顔を押し当てる。
「ごめんなさい。少し感情的になり過ぎたわね。メイモアさん、バテアト卿にはあまり厳しく叱らないように口添えするから、とにかく家に帰りましょう」
 そう言ってメイモアさんの肩に手をおくと、彼女は今度は抵抗せずに無言で従った。

スポンサーリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)