懐かない?

≪ 第23話「四期遣使の屋敷」

第24話「懐かない?」

 サレカさんと私はニンバンダに案内されて長い廊下を歩いた。
 ニンバンダは1つの部屋の扉の前で足を止める。
「この部屋です。とてもかわいいけど、ちっとも懐かないです」
 ニンバンダはそう言いながらドアノブに手をかける。
 な、懐く!? 生き物なの!?
 私はサレカさんと顔を見合わせてから部屋に足を踏み入れる。
 右手の壁沿いには寝台、左手には洋服箪笥が置かれた普通の部屋。
 でも正面奥に置かれた大きなガラスケースが部屋を異質なものにしている。
 そこに入れられたものを見た途端、私は仰天して本当に腰を抜かしそうになった。

「セア・エット!?」
 私が大声で叫ぶと、背中に羽根の生えた小さな生き物も
「イェラ!? 無事だったの!?」
と叫び返し、ガラスに両手をくっつけて、こちらを見つめる。
「イェラーさんの知り合いでしたか?」
 ニンバンダは目をぱちくりさせる。
「いったい、どういうつもりなの!?」
 私はニンバンダを振り返って問い詰めるが、彼女は不思議そうに首を傾げるだけだった。
「妖精さんをこんな所に閉じ込めて、どういうつもりなのかって訊いてるの!」
「放すと逃げるです」
 ニンバンダはあっさりそう答えた。
 だめだ。まるで価値観が合わない。
「当たり前でしょー! 出せ、出せー!」
 人の手の平ほどの大きさしかない妖精さんは、小さな足でガラスを何度も蹴飛ばす。
 彼女は8姉妹の中で一番勝ち気でおてんばな妖精だった。

「私、ちゃんとかわいがってます。エサもあげてます。でも全然なついてくれないのです」
 ニンバンダは肩をすくめて、そんなことを言った。
「ヤークル(工学生命体)は動物じゃないのよ!? 人間と同じなの! 自分の意思があって心があって …… とにかく彼女たちは自由に羽ばたいて暮らしたいのよ!」
 私がそう怒鳴ると、ニンバンダはケースの傍まで寄って来て、
「外に出たいですか?」
と間抜けなことを質問した。
「だから何度もそう言ってるでしょー! バカじゃん!? アタマ悪いじゃん!?」
「 …… 」
 セア・エットもセア・エットで、もう少し口のきき方を考えたほうがいいと思ったけれど、それはともかく、なんとしてでも彼女を解き放つ手段を考えなくてはならない。
「セア・エットを放してあげてくれないかな?」
 いちおう正攻法を試してみる。
「ダメです。お父様がたくさんお金払って買ってくれたものです。これは私のものです」
 ニンバンダは首を横に振る。
「妖精さん、かわいそうだよ」
 サレカさんもそう言ってくれるけど、ニンバンダは「ダメです、ダメです」の一点張り。
「でも、この屋敷を離れないと約束するなら、ケースから出してあげてもいいです」
 ニンバンダのその言葉に微かな可能性を見出したのに、
「バカ言わないでー! こんな屋敷、すぐに出て行ってやるんだからー!」
 セア・エットがそう叫んだので、私は額に手を当てて天を仰ぐ。
 この後先考えない性格、まるで変わってない。
 そういえば、異世界で孵化するであろう9番目の妖精さんも、遺伝子構造上はセア・エットに性格が似るはずだと、エリド・パテスが言っていた。シィールパラナも向こうの世界で子育てに苦労するかもしれない。いえ。今はそんなことどうでもいいのよ。なんとかセア・エットを救い出す方法を考えないと。 ≫ 第25話「直訴してみました」

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