お姉さんと呼びなさい

≪ 第25話「直訴してみました」

第26話「お姉さんと呼びなさい」

 クルマロ君がやって来た。
 サレカさんのお屋敷に居候しているモル・モックだ。
 人間の膝より少し上ぐらいの背丈しかない、小さなヤークル(工学生命体)。
 リムシーペル(リームシュペエル)をのぞけば、おそらく世界最小種。身長に対する手足の比率が少し短く、顔に対する目の比率は少し大きい。とても愛らしい姿をしているので母性本能をくすぐられるけれど、好奇心が強すぎるところがちょっと厄介だ。

「あら、クルマロ君、お久しぶりね。何か御用?」
「サレカ姉ちゃんが風邪気味なんだ。薬を買ってきてほしいって頼まれたの」
 クルマロ君は私を見上げてそう言った。
「あら。それは心配ね。でもそれは薬屋さんに行ってちょうだいね」
 にっこり笑ってそう返す。
 だから、ここを何屋だと思っているのよ。

「面白い物がいっぱい並んでるね!」
 クルマロ君は当初の目的などすっかり忘れた様子で棚のそばまで駆け寄ると、好奇心を湛えた瞳をいっぱいに見開いて、不思議な品々を眺めている。眺めるだけならいいのだけど ……

「触らないで」
 クルマロ君が品物をぺたぺた触るので注意する。
「持ち上げないで」
 クルマロ君が壺を持ち上げようとしたので注意する。
「乗っかるな!」
 クルマロ君がぴょんと跳躍して、自分の手の届かない棚に乗ったので、思わず叫んでしまった。私はたまらずカウンターを出て大股で棚の所まで行って背後からクルマロ君をひょいと抱き上げる。
「まだ、見たいよー」
と叫んで手足をばたばたさせるクルマロ君をカウンターの所に連れて行った。

「プット君やテン君は元気にしてる?」
 こんな質問は馬鹿げているかもしれない。
 モックたちは見けとは裏腹におそろしく頑丈な種族なのだ。
「このまえ、プットたちと筏を作ってオヴィヤ川を下ってみたんだ」
 そんなこと別に訊いてないけどね。
「そしたら途中で筏が壊れちゃって、みんな、ずぶ濡れになっちゃったんだ。そんで誰のロープの結び方が悪かったのかって、喧嘩になったの。ぼくは絶対にテンのせいだと思うな。おばちゃんはどう思う?」
「お・ね・え・さ・ん」
 私が声音に本気の怒りを込めてそう言ったので、さすがのクルマロ君も慌てて
「お、お姉ちゃんは、どう思う?」
と言い直した。そんなこと訊かれたって知るもんですか。

 私はクルマロ君にミルクとクッキーをあげて、適当に話を聞き流しながら、セア・エットを救い出す方法を考えていた。使う道具は決まっているけれど、この計画を実行に移すのはさすがに無理かもしれない …… いえ、待って。もしかすると、もしかするかもしれない。
「ねえ、クルマロ君、ちょっと頼みがあるんだけど」
 クルマロ君はクッキーを頬張りながら「何だい?」という目でこちらを見つめる。

 ≫ 第27話「自慢してください」

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