港で始まる恋の物語?

≪ 第40話「騒がしい鯉たち」

港町の地図

第41話「港で始まる恋の物語?」

 仕入れのために港都アーニグを訪れた。港都は国都外港よりも規模の大きな港で、月世界の外からやってくる大型船も次々と入港してくる。だから色々な姿をした外国人やロボット、大小のヤークルたちで賑わっている。

 私は港の一軒の店でタンツァの行商人と取引していた。
「うーん。愛と言えば、愛。でも怖いわねえ」
 私は全く同じ意匠の指輪2つを右手に載せ、目を近づけて眺めていた。右目に嵌めた鑑識眼鏡が小さな機械音を立てながら、油断なく価値を分析してデータを羅列する。
「いいでしょう。買うわ。でも値段はこれぐらい」
 私は宙にペンで小さな数字を書く。すかさず相手も応戦。
 比較的短い時間で価格の折り合いがつき、私は指輪を入れた箱を大事に鞄にしまって町を散策し始めた。指輪といい、このあとの偶然の出会いといい、今日は何かと「恋」に縁のある一日だった。

 港をぐるりと囲むように造られた細長い町。円周に沿ってレトロな鉄道が施設され、敷かれた線路を挟むように住宅が並んでいる。

 線路を跨ぐ歩道橋を渡る。足元が微かに揺れている。
 列車が橋の下を、ごとり、ごとり、とのんびり通過する。
 その震動が足裏に心地よい。

 前方から若い男女が歩いてくる。
 女は男の腕に手をかけ、肩に頭を寄せている。

 港都の恋人たち。いいわねえ。

 この日ばかりは妬まずに寛大な気持ちで恋人たちの様子を眺めていたのだけれど、ふと違和感が頭を掠めた。

 はて? どこかで見たことがあるような?

 目を惹いたのは、お洒落なサングラスをかけた女性のほうだ。
 彼女は先にこちらを気にした様子で、不自然に顔を背けようとしている。男性の腕に押し付けるようにして顔を隠す。2人が私の脇を通り過ぎる寸前に、私は「あ!」と気づいて声をかけた。
「メイモアさん!」
 私が叫ぶと、彼女はびくりと身を震わせて硬直した。
「ひ、人違いですわ」
 彼女は男の腕を引いて立ち去ろうとする。

「だって、だって、メイモアさんでしょう?」
 私は彼女の顔を覗き込むようにして言った。
「ほうら、やっぱりメイモアさん。間違いないわ」
 彼女は観念したようにサングラスを外して素顔を見せた。
「これまた奇遇ねえ。それにしても、メイモアさん、お付き合いしている人がいたのね。そちらのかたは?」
 私は青年の方を見て自己紹介を促す。
「ルクアトブです」
 彼も少し気まずそうな表情をして頭を掻いている。
「お願い、イェラさん。ここで私たちに会ったことは、誰にも言わないで」
 彼女は私の腕を両手で掴みながら、切羽詰った声で頼んだ。
「ええ? 自信ないなあ」
 ふざけてサレカさんの口真似で答えてみた。でもメイモアさんが睨むので、慌てて「もちろん冗談よ」と言い添えておいた。

 ≫ 第42話「恋とは理屈ではなく、不条理そのものなのです」

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