城塞市場

≪ 第42話「距離が離れすぎていると使えません」
SF小説の城塞市場の地図

第43話「城塞市場」

 国都の市場には独特な雰囲気がある。
 都の中心部にある方位交差点から大通りに沿って東へ歩いてゆくと、大地にどっしりと根を張る石積みの城壁が見えてくる。目を凝らせば、胸壁越しに歩哨の頭が動く様子を窺うことができる。城壁の北と南に大きな門が備わっているが、普段は双方とも閉ざされている。

 大通りは城壁の中央を抉り込むように東へと貫かれ、人々は頭上に聳える石壁の狭間を縫うように市場前広場まで達する。ここもまた四方を壁に囲まれている。広場からさらに東へ抜ける道の先へ目をやるとスリバナトの河岸が見える。広場の南北には開かれた門があり、そこを抜けて、ようやく市場へ入ることができる。

 左手の門から人の流れに乗って市場へ足を踏み入れた。
 一際大きな喧騒が耳に殺到する。
 呼び込み声と手を叩く音、値切り声、怒声、笑い声、露台に銅貨が落ちる音。
 そうした音が雑然と混じりあって、市場の活気を醸し出す。

 中央に聳える無骨な五角柱の防御塔は、この場所が城砦であることを威圧的に顕示する。凹凸のない滑らかな壁面だ。壁の素材自体が強固であるうえに、非常時には空間シールドも張られるのだろう。それでも壁の所々にはエネルギー弾を浴びたような傷がある。

 この防御塔は外側の城門を破られた場合の最後の備えとなるものだ。つまり壁の傷は、かつて敵兵が市場まで侵入したということの証でもある。この市場は何と戦い、何を守ってきたのだろう。私はしばらく防御塔を見上げながら、この国の刻んできた歴史に思いを馳せていた。

 防御塔を取り囲むように露店が建ち並んでいる。
 一番外側、すなわち城壁には矩形の空間が一定間隔で穿たれていて、市場の固定店舗を連ねている。私は露店と固定店舗の間にできた路地をゆっくり歩き、時折立ち止まって品物を見定めて、小物をいくつか購入した。

 子供たちが人波を器用に避けながらジグザグに駆けて行った。
 ゴミ捨て場で野良犬が残飯を漁っている。酔払いが城壁に寄り掛かかるように座り込み、通り行く人に罵声を浴びせている。

 食料品点の並ぶ通りに入る。色とりどりの野菜や果物を並べた青果店の隣に、淡水魚を商う店があった。私はふと店先に置かれた水槽に目を止める。その中では数匹の亀が所在なさそうに動き回っていた。

「亀だわ。本当にこれを食べるのかしら?」
 サレカさんも亀は人気の食材だと言っていた。
 私は亀をじっと見つめて、料理された姿を想像していると、
「買うのかい? 1匹、1200ミラカだよ!」
 店のおかみさんが、大きな声でそう叫んだ。
「1200!? そんなにするの?」
「なに言ってんだい。こんなに生き生きとした亀を、こんな格安で買える店なんてそうないよ」
 おかみさんは無造作に水槽に手を入れて、亀を掴んでこちらに差し出す。
 私は手足をばたばたさせる亀を見ながら
「何だか可哀想。川に戻してあげたら」
と率直な気持ちを伝えると、おかみさんは奇人変人でも見るかのような目で私をじろっと見つめた。

 こんなことをしている場合ではない。
 大商いの機会が訪れているのだ。私は足早に路地を抜けて北東へ向かった。

 ≫ 第44話「リストに載っていない品物」

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