リストに載っていない品物

≪ 第43話「城塞市場」

第44話「リストに載っていない品物」

 北東にある組合館支部(本部は南側にある)に足を踏み入れた。諸々の手続きのために訪れた人々が慌ただしく行き交い、あちらこちらに雑多に浮かび上がっている画像には相場や株の値動きが表示されている。
人々の喧騒を掻き分けるようにエレベーターで3階まで上がる。目的の部屋のインターフォンを押すと、扉の前に小さな画像が浮かび上がって女性の姿が映り、
「どうぞ」
と言って入室を促した。

 執務室には何枚もの画像が浮かび上がっていて、彼女の多忙を示していた。彼女が指をぱちんと鳴らして画面を全て消すと、「そちらへ」と言って机の前のソファに座るように促した。

 私は城塞市場組合長の娘、イクィタ・ヴェコと向き合って座る。
 彼女は理知的で自信に満ちた眼差しで私を真直ぐ見つめた。
 都政館前で会ったときに肩の下に垂らしていた金髪も、今は後ろで結わえて邪魔にならないようにしているので、あの時よりもずっと大人びた印象を受ける。組合長ともなると豪商といっても良いぐらいの身分だから、かなり裕福な育ちをしているのだろう。彼女の仕草や声から、そうした上流商家の雰囲気が漂ってくる。

「急に呼び立てて申し訳ないわね」
 彼女は淡々とした口調でそう言った。
「いえ。仕事ですから」
「そうね。場合によっては大きな商取引になるかもしれない。あなたの噂は聞いてるわ。色々と面白い物を売っているそうね」
「不思議な品物が看板ですから。あまり売れないけど」
 ちょうどその時、イクィタの秘書がお茶を出してくれたので、私はその香りを軽く吸い込んでから口をつける。一等級のお茶だ。癖のない爽やかな甘味と苦みが口にさっと広がってすっと消える。イクィタは秘書に目配せして部屋を出るように促したので、彼女は一礼して足早に部屋を出た。秘書にも聞かせられないような取引を持ちかけるつもりなのかと、私は警戒する。

「あなた、以前に警務館に咎められたことがあったでしょう?」
 イクィタが思わぬことを指摘した。
 そんなことまで調べがついているのか。
「ええ。輸入品販売リストの届出を忘れていて」
 この国に来たばかりの頃、開店許可を得るために、あれこれ手続きをしていたけれど、何しろ扱っているものが奇妙なものばかりだから本当に面倒だった。おまけに都政館に輸入品販売リストを提出するという大事な手続きが抜け落ちてしまったので、変な疑いをかけられて、ちょっとしたトラブルになってしまった。
「こちらが興味あるのは、提出したリストに載せなかったほうの品物なの」
 イクィタが低い声でそう言ったので、私は思わず身構えた。

 ≫ 第45話「どちらにも加担しません」

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