騒がしい鯉たち

≪ 第39話「共和国の5月は秋です」
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第40話「騒がしい鯉たち」

 5月(アギル)に入って十日も過ぎた頃、久しぶりにサレカさんが店を訪れた。
 4月のサレカさんは何かと忙しかったようだ。
「劇団に入るの? サレカさんが?」
 私は静かな笑みを浮かべて、外套に身を包んだサレカさんと向かい合う。
「うん。新しくできた市民劇団。タガテさんていう、お金持ちが出資してくれるの。脚本と演出はイクィタって子がやるんだよ」
「イクィタって、あのイクィタ・ヴェコさん? 組合長の娘さんの」
「うん。彼女、元々は学堂劇団で演出をしてたんだ」
 学堂劇団といえば、伝統と格式のある名門劇団だと聞いたことがある。
 そこで演出まで務めていた人が、どうして名もない劇団の指揮をとるのかしら。

「サレカさん、女優になるのねえ」
 ちょっとからかうように言ってみる。
「あはは。女優なんて大げさ。ただの素人演劇だよ」
 サレカさんは笑いながら、手提げ袋から、くるくる巻かれた大きな紙を取り出した。
「で、今日はお願いがあって来たの。まだまだ劇団員の数が足りないからポスターで募集してるんだ。このお店にも1枚貼ってもらえないかと思って」
「お安い御用よ」
 私はポスターを受け取って広げてみる。
「アフモップコチェ(騒がしい鯉たち)。面白い劇団名ね」
「でしょう。それ、私が考えたんだよ。みんなが元気一杯に飛び回れたら楽しいなって」
「楽しそうね」
「よかったら、イェラもどう?」
「遠慮しておくわ。サレカさんのライバルになりたくないもの」
 私は冗談めかして断りながら品物を渡した。
 休日の時間を趣味に費やすのは、いいことよね。
 私の趣味は何かしら? やっぱり不思議な物を集めることかな。

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