どちらにも加担したくありません

≪ 第44話「リストに載っていない品物」

第45話「どちらにも加担したくありません」

「それはどういうことかしら?」
 私は意味がわからないふりをして応じてみるけれど、
「面倒な腹の探り合いはやめて率直に話し合いましょう。強力な武器が欲しいの。それも特級工芸品クラス、1つで戦局を変えてしまえるような代物が」
「ほほほ。御冗談を」
 私は乾いた笑いを返すほかなかった。

「持っているの? 持っていないの?」
 イクィタはこちらをじっと見つめて尋ねる。
 港の倉庫に置かれたままの “鎧” の威圧的な姿が脳裏に浮かぶ
 到底、町に運び入れることのできるような代物ではない。
 売ることも処分することもかなわず、そこに眠らせたままにしてある、私専用の機体。

「持っていても売ることはできません。リスト以外の品物を売れば、警務館に連れて行かれてしまいます」
「その返答は『持っている』と判断するけど、相応の対価以上の金額を支払う用意があるわ。取引は慎重に行うけれど、私は警務館にも顔がきくから、万が一の場合にもあなたを釈放させることができると思う」
 この女性は、やはり噂どおり都政官(ジェモサール)への階段を昇ろうとしている。私は確信に近いものを感じた。

「金額の問題ではありません。私はこの国の勢力争いに一切関わるつもりはありません」
 正直言うと、お金は喉から手が出るほど欲しかった。転送装置の充電にかかる電気代のこともあって、近ごろの家計はかなり苦しい。
 それでもやはり売る気にはなれない。この国の人たちが、どのような手段で権力争いをしようとも勝手だけれど、それは外国人である私が関わり合うべきことではないし、関わり合いになりたくもなかった。別に正義感でもなく、きれいごとを言うつもりもない。ただ私は騒乱とは無縁の所で穏やかに暮らしていたいだけなのだ。
 そもそも、あんな鎧を譲り渡したところで、いったい誰が操ることができるだろう。

「私はこの国を統治する自信がある」
 イクィタがきっぱりと断言したので、私は目を丸くする。
 彼女は椅子から立ち上がって、窓のほうを向いて話し出す。
「私は別に丘の上の貴族を恨んでどうこうしようとか、そういう狭量な目的で政界に出たいわけではないの。私は分断された共和国を1つにまとめたい。このままでは、共和国はいずれ外敵に侵略されることになる。できることなら一滴の血を流すこともなく改革を成し遂げたい。でも強い交渉力を得るために大きな武力も備えておきたいの。現在の貴族と市場の戦力比は6:4ほどで貴族側が優勢。バテアト家の率いる強大な月軌道戦力がその優勢を支えている。いずれにしても、これを4:6の状況に変えて交渉に臨みたい」
 彼女はそこまで言って、窓から視線をこちらへ戻す。

「一方的な交渉をするつもりもないわ。貴族が保有する特権の一部と引き換えに、こちら側(市場)の独占している流通の一部を開放してもいいと考えている」
 イクィタは真摯な瞳で私を見つめる。
 あるいは、この女性ならできるのかもしれない。
 この国の将来を預けてみたい、そんなふうに思わせる、抗しがたい魅力を備えた人物だ。それでもやはり、私は加担したくないと思った。この国の将来はこの国の人たちが決めればいい。仮にどちらかに加担せざるを得ないというのなら、私は友人である、サレカさんやメイモアさんたちの側に立つだろう。

「ごめんなさい」
 私はソファから立ち上がって商談を終える。
「そう。残念ね。でも金に目がくらんで安易に応じるより、むしろずっと信頼できる態度だわ。私は諦めない。日を改めて話し合いましょう」
 イクィタはそう言って手を差し出した。
 私は躊躇いがちに微笑んで、その手を握る。

 本当に、なんという魅力的な人物なのかしら。
 やがて年を重ねれば、ガラモイの王や、ハーリの女王にも劣らぬ光を放つようになるかもしれない。しかし、その魅力はまた独裁者の素質と表裏一体の関係にあることを私は長年の経験で知っていた。彼女の手の温もりを感じながら、そう遠くない将来、この手がこの国を激動の時代に導くことを予感する。この手が、バハシェトやタンツァで繰り広げられたような、壮大なベモパトイ(叙事詩)の幕を開けることになるかもしれない。

 ≫ 第46話「コーヒー豆を輸入したいのです」

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