突然の乱入者が事態を悪化させました

≪ 第53話「駆け落ちごっこ」

第54話「突然の乱入者が事態を悪化させました」

 地下7階でエレベーターの扉が開いた瞬間に
「痛えええ! 離せえええ!」
という尋常ならざる叫び声が聞こえてきたので、私たちは慌てて広間へ駆けて行った。そこにいたのはバテアト卿ではなかったが、かすかに見覚えのある顔だった。たしか昨晩、屋敷の門の前で見かけた男だったと思う。30になるかならないかぐらいの若い男で、瞳に冷たい色を湛えていた。男の襟元にはバテアト家の使用人であることを表す紋章がある。おそらく屋敷の守衛か何かだろう。男はルクアトブをうつ伏せに床に押しつけて片腕を捻り上げていたのだ。その傍には例のスキンヘッドの男が両手で鳩尾を抑えてうずくまっていた。

「乱暴な真似はよしてちょうだい、ヤクトビ!」
 メイモアさんが悲鳴をあげる。
「ご主人様の命令なのです。何があってもお嬢様を連れ戻すようにと」
 ヤクトビとよばれた男はまた軽く力を入れる。
「ぎゃあああ! 痛えええ!」
 ルクアトブの叫び声が城内に木霊する。
「とにかく、その手を離しなさい!」
「それでは屋敷にお戻りいただけますか、お嬢様?」
 ヤクトビはルクアトブを押さえたまま、メイモアさんのほうを見て尋ねる。

 どうも嫌な流れだわ。このまま、この守衛がルクアトブの手を離さなければ、私が手ひどくとっちめることになる。するとバテアト卿に恨まれる。今後、この国で生活しにくくなる …… て、そんなこと考えている暇もなさそうね。

「はい、守衛さん。すぐにその手を離しましょう。なるべく暴力沙汰は避けたいの。言っとくけど私は強いわよ? ものすごーく痛い目をみることになるわよ? 10秒以内! 10、9、8、7、6 …… 」
 私が腰の刀の柄に手をかけて男の目をじーっと見つめながら秒読みを開始すると、残り3秒というところで、彼はまるで本能的な恐怖を覚えたような表情になって、慌ててルクアトブの手を離して後退って身構えた。

 …… 何もそこまで怖がることないと思うけど。まあ、相手の力量を瞬時に判断できるってことは、それなりの手練れである証拠だ。

「ルキ! 大丈夫!?」
 メイモアさんがルクアトブの傍に駆け寄って背中をさする。
「ちくしょう! 丘の上のやつらは、いつだってこうやって力で解決しようとしがやるんだ! ちくしょう!」
 ルクアトブは悔しそうに何度も拳で地面を叩く。

「とにかく屋敷にお戻りください、お嬢様」
 ヤクトビはメイモアさんの傍まで歩み寄って促す。
「絶対に帰るもんですか!」
 メイモアさんは、ぷいとそっぽを向く。
「お嬢様を連れ戻さないと、私が叱られるのです」
「勝手に叱られてれば?」
「 …… 」

 ヤクトビは事態を悪化させただけだった。せっかく私たちがメイモアさんを説得しているところに押し入ってきたので、かえってメイモアさんの心を頑なにしてしまったのだ。どうしてくれるのよ、まったく。

 ≫ 第55話「頭を冷やしなさい」

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