人型機械の暴挙

≪ 第61話「城の最上階」

第62話「人型機械の暴挙」

 私たちは手近な部屋に入って今後の方針について話し合うことにした。城内であれば端末で連絡を取り合うことができる。私は腕輪の端末でヤクトビにもここに来るように言った。
「あんな奴、放っておけよ」
 ゴドレバは吐き捨てるように言った。
「こういう状況では彼も貴重な戦力よ。今はつまらない内輪もめなんてしている場合じゃないでしょう」
 私は宥めるように言うけれど、
「俺はあいつの顔見てるだけでイライラするんだよ!」
 ゴドレバはそう言いながら煙草に火をつけ、苛立ちを鎮めるように深く吸い込んでから、ゆっくりと煙を吐いた。
「本来なら地下8階まではエレベーターで行けるはずなのに、ザナシーはエレベーターを制御して8階に立ち入らせないようにした。彼らは自分たちが8階より下の階と行き来するところを見られたくないのだと思う」
「こっそりあとをつけられる恐れがあるからね」
 パラヤが同意して頷く。
「彼らは全員で十人足らずだから、監視にあまり人手を割きたくないのでしょう。エレベーターを封じて階段に見張りをつけておきさえすれば、それだけでこちらの動きを把握できる。特に追尾装置を警戒しているのではないかしら」
「追尾装置?」
 メイモアさんが訊き返す。
 私は耳飾りを指先で外して放り投げてみせる。
 小さな球体はふわふわと浮いて辺りを漂い始める。
「こういう装置」
 私がそう言うと、
「イェラは本当に色々な物を持ってるんだね」
 サレカさんが妙に感心したような口調で言った。
「小さな装置だけど、十分に警戒していれば目に止まるし、これを使うのはちょっと躊躇われるわね」
 私は耳飾りを掴んで自分の耳に戻した。

 そのときヤクトビが部屋に入ってきたが、その傍らには例の城マニアらしき中年男性がいた。色々と情報通のようだし、彼の協力を拒む理由はない。
「ええと、まだお名前を伺ってなかったわね」
「モーゲンです」
「旅行中にこんな目にあって災難だったわね」
「ええ、私は田舎の学校で教師をつとめておるんですがね、今頃は同僚も生徒たちも大騒ぎしとるでしょうなあ」
 モーゲンはそう言って肩を落とす。
「 …… たぶん、あなたの学校だけでなく、国中が大騒ぎになっていると思うわよ」
「そちらのお仕事は?」
 モーゲンにそう訊かれて、いきなり現実に引き戻された気がした。
「え? ええ、小さなお店を経営しているんだけど、このまま何日も戻れないと経営がどうなるか …… 」
「そうですか。商売されているかたは私などよりもっと大変ですなあ」
「ええ、本当に。個人商店なので何の保障もないし …… 」
 そんなふうに妙な意気投合をしていると、
「 …… 店とか、学校とか、今はそんなこと言ってる場合じゃないと思うけどな」
 サレカさんが呆れたような口調で口をはさむ。
 な、なんですって!?
 私たちのような一般市民は生活の糧を得るために必死なのよ!
 あなたたちのような名家のお嬢様とちがって!
 つい、そんな反論が喉元まで出かかったけれど、今はそんな言い合いをしている場合ではない。私は「こほん」とひとつ咳払いをして、
「そうね。話を戻しましょう」
 閉じ込められている側には色々な主張や流儀を持つ者たちが入り混じっていて決して一枚岩とはいえない。本当に味方同士と言えるかどうかさえ怪しい。一度、全員が集まってリーダーを決めて方針をひとつにまとめたほうがいい、そんなことを話そうとしていた矢先のことだった。

 右手首に嵌めている腕輪が震えて小さな画像が浮かび上がる。
 そこにはタピアド(例の双子の母親)の青ざめた顔が映っていた。
「大変です! き、き、斬られました! み、見張りの人が!」
 この場にいる全員が見えない糸で一括りに縛られたかのように身を強張らせた。
「落ち着いて、タピアド。見張りというのは地下の階段に居た、あの背の高い男のことね?」
「私はよく知らないけど、階段のところで遺体を見た人が大騒ぎしていて …… 」
「犯人は誰なの!?」
「それもまだわからない。でも周りの人は『ドゥイがやったに違いない』って」
「バシャ・ドゥイか!」
 ゴドレバが呻くように叫んだ。
「もしかして、あの人型機械!?」
 私は確認するように尋ねた。
 白い躯体に黒マントを羽織った人型機械の姿を思い浮かべる。
 人の集団の中にいれば嫌でも目についた。
 昨日から直感的にもっとも警戒していた存在だ。
「”三つ目のドゥイ” …… 武闘派の首領だ」
 ルクアトブが掠れるような声で答える。
 これ以上詳しい事を聞いている暇はなさそうだ。
「ヤクトビ、行くわよ!」
 私がヤクトビを連れて部屋を出ようとすると、
「私たちも …… 」
 サレカさんがついて来ようとする。
「あなたたちは、このまま部屋にいなさい。斬られた遺体なんて見たくないでしょう?」
 そう言うと、サレカさんは青ざめて立ち竦む。
「俺は行くぜ! ドゥイを止めねえと!」
 ゴドレバは強がるようにそう言うけれど、
「喧嘩と本物の斬り合いはちがうのよ」
 私はそれだけ言うと、ヤクトビと一緒に現場に急いだ。
 ドゥイがザナシーを斬れば最悪の事態となる。
 それだけは何としても阻止しなくてはならない。

 ≫ 第63話「バシャ・ドゥイ」

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