閉ざされた城門

≪ 第57話「合言葉」

第58話「閉ざされた城門」

 エレベーターに乗って中庭に戻ると、すでに大勢の人々が閉ざされた城門の前にひしめき合っていた。
「どうなってるんだ!?」
「誰がこんなことしやがった!」
「ここが開かなければ帰れないわ!」
「政府の仕業だ! 目障りな俺たちを隔離するつもりだ!」
 まだ状況が把握できていないので、無秩序な憶測がさざ波のように広がり、それがいっそう人々の不安に拍車をかける。
「慌てるな! これは誰かの悪戯にちがいない。地下の制御室に行って門を開けよう!」
 一般観光客の中年男性が、端末で城の内部構造を宙に映し出していた。
「制御室はどこだ!?」
 隣にいた活動家らしき若者が画像を覗き込んで尋ねる。
「だめだ。ちくちょう。見当たらない。地下9階より下が非公開になっていて映らないんだ」
「だったら直接行ってみるしかないな」
 そばにいた別の若者が提案する。
「行けるの? 非公開てことは、立ち入り禁止になってるはずでしょう」
 1人の女性がそう言うと、
「しかし、門を閉ざしたやつは入ったんだろう」
 中年男性は自分の顎をなでながら唸るように言った。
「そもそも、あのエレベーターは地下8階までしか行けない」
 若者が指摘し、
「てことは、地下8階のどこかに、別のエレベーターがあるんだろう」
 中年男性がそう応じた。
「私は城の隅々まで回ったが、そんなものはどこにもなかったぞ」
 初老の観光客がそう言って首を傾げる。

「君たちがそこへ赴くことは許されない。まだその時ではない」
 中庭に抑揚のない声が響き、人々は一斉に発言者に視線を向ける。
「どういうこと?」
 1人の女性がかすれるような声で尋ねる。
「騒ぎ立てるな。瞑想しなさい。波立つ心を鎮めるのだ」
 ザナシーはそう言ってまた目を閉じて深呼吸する。
「ザナシー! 貴様の仕業か!」
 活動家の1人がザナシーを指差して叫んだ。
「私ではなく、運命の手が君たちを導き入れたのだ」
 ザナシーは目を閉じたままそう答えた。
「なんだ、こいつは!?」
 観光客の1人が叫んだ。
「こいつは瞑想派のカロ・ザナシーだ。前々から頭のおかしいやつだとは思っていたが、まさかこんなことをしでかすとはな。最後に辛うじて残ってた頭のネジがついに吹っ飛んだんだろうよ」
 1人の若者が辛辣な言葉を吐き捨てる。
「多勢に無勢だろう。こいつをぶん殴って門を開けさせればすむことじゃねえか!」
 別の若者が叫ぶと、人々の間に「そうだ、そうだ」というように、一時的に安心感が広まるが、ザナシーから状況を告げられれば、さらにひどいことになるのは目に見えていた。
「みんな、落ち着いて聞いてちょうだい!」
 私は意を決して中庭の人たちに声をかけた。
「残念だけど、事態はあまりよくないの。実は …… 」
 なるべく彼らを刺激しないように落ち着いた口調で説明したが、話が進むにつれて、人々の表情に不安の色がじわじわと広がってゆくのが手にとるように感じられた。
「つまり私たちは完全に閉じ込められたってこと!?」
 女性の叫び声を皮切りに、彼らの口から感情が堰を切ったように溢れ出す。
「冗談じゃない! 俺たちは人質か!?」
「明日は仕事があるんだぞ!」
「この子だけでも城の外に出してあげて!」
「合言葉なんて知るか! 制御室の扉をぶっ壊せよ!」
 人々は勢いのままに城になだれ込もうとするが、ザナシーが片手を上げて制止する。
「無駄なことだ。制御室は地下の深い所に隠されている。この城は最高レベルの防御態勢に入った。門は閉ざされ、その先の橋も失われた。さらに城の周りには二重の空間シールドが張り巡らされている。もはや内側からも外側からも出入りすることはかなわない」
「それがどうした! 軍はシールドを破る火力を備えているぞ! こんな茶番はすぐに終わるさ!」
 別の誰かがザナシーを指差して叫ぶ。
「ほう。君たちのいる場所を砲撃するのかね?」
 ザナシーが口元に笑みを浮かべて指摘すると、人々の間にまた別の形の不安が広がっていく。救出作戦が滞れば、あるいは軍も「多少の犠牲はやむなし」という選択をするかもしれない。でも私としてはその可能性は極めて低いと考えている。こう言ってはなんだけど、サレカさんとメイモアさんが人質になっているのだから、軍も彼女たちの安全を最大限に考慮するはずだ。しかし、まさかそれをこの場で告げるわけにもいかない。

 そもそも、この小さな国の軍隊が二重シールドを破るだけの兵器をどれぐらい備えているのだろうか。ここは地下都市のなかに、さらに入れ子のように据えられた城だ。まさか月の軌道上から地下都市の天蓋を破るような艦砲射撃を試みるわけにもいかないだろう。軍は重装歩兵隊を主軸とした地上戦を選択せざるをえないはずだ。
 そんなことを思いめぐらせながら、私はこの容易ならざる事態を解決するための1つの選択肢を心の片隅にそっと加えておいた。とはいえ、それは極めて成功の見込みが少ない強行手段だ。できる限り他の解決策を見出さなくてはならない。

 ≫ 第59話「母親の嘆願」

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