外交官の御令嬢たちが揃って来店しました

≪ 第21話「メテバ銀行で大騒ぎ」

第22話「外交官の御令嬢たちが揃って来店しました」

 サレカさんがニンバンダを伴って店を訪れたのは、その数日後のことだった。
 目をぱちくりさせている私に向かってサレカさんは、
「ニンバンダだよ。もう知ってるよね?」
 と、彼女を改めて紹介する。
「イェラー!」
 ニンバンダは親しみを込めて抱きつこうとしてきたけれど、私は咄嗟に身をかわした。
 彼女は困ったような、寂しいような顔をする。
「どうして、避けるですか?」
「そういう挨拶は、ここではあまり一般的ではないの」
 抱擁はともかく、キスは勘弁してちょうだい。
「あなたは、タンツァー人」
「タンツァでも、同じなの」
 私は溜息をつく。
「サレーカさんは避けない」
 ニンバンダはそう言うけれど、隣に立つサレカさんに目をやると、明らかに立場上我慢しているだけという表情をしている。
 ニンバンダは、すぐに気を取り直して、
「ここには面白い物がたくさんあると聞きました。見に来ました」
 発音は綺麗だけれど、微妙におかしな話し方をする彼女に対し、私は棚の方を指差した。
「向こうにあるから、勝手に見てちょうだい」
 そう言うと、彼女は足早に不思議な品物が陳列されている棚に駆けてゆく。
「変な子ね」
 私はサレカさんだけに聞こえるように囁いた。
「まあね。悪い子じゃないんだけど。四期遣使シッパウワさんの娘さんなんだ。昨晩、シッパウワ一家を我が家に招待したの。こういうのも父の仕事の一つだから」
「あら。お父様、ご帰国なされているのね」
「うん。一昨日ね。シッパウワさんは先週赴任なされたから、私たちは初めての顔合わせってこと」
「儀礼上の接待ね。折角の休暇中なのに、お父様もお気の毒ね」
「ほんと、ほんと。一期は半年だから、あと2年間、家族ぐるみの付き合いが続くんだよ。2年は長いなあ。まあ、そんなわけで、宴席でこのお店の話題が持ち上がって、ニンバンダは是非とも今すぐに行きたいって言うから、私が案内してきたの。迷惑だった?」
「いえいえ。どんな変人でも、お客様には変わりないから」
 私たちが世間話をしていると、ニンバンダが戻って来た。
「どれもこれも面白そうだけど、どんな機能があるのか分からない。説明してください」
 もしかして買ってくれるのかしら?
 私は期待感を膨らませて、ニンバンダと並んで不思議な品々の並ぶ棚のほうへ向かう。
 その途中で「サレカさん、そんな所に立っていると邪魔」と軽く押したので、サレカさんはちょっと怪訝な顔になって私を睨んだ。

「これは何ですか?」
 ニンバンダは手に楽器を持った小さな人形たちを指差した。
 私が「トゥ・デーコ(演奏開始)」とタンツァ語で合図して、ぱんと手を叩くと、人形たちは一斉に楽しい音楽を奏で始めた。
「おもしろいねー! 小さな音楽会ねー! これはなかなか不思議です!」
 ニンバンダは実に愉快そうに笑いながら音楽会を眺めている。
 気に入ってくれたかしら?
 そう思ってニンバンダのほうを見て微笑んでみるけれど(営業スマイル)、彼女はすぐに別の品物を指差して説明を求める。
「これは何ですか?」
「不思議な釣り針。これを釣り糸につけて水に入れると、針のほうから動いていって、お魚さんを捕まえてくれるの」
「 …… 」
 今度はあまり感心してくれなかった。
 確かになんか微妙だし、ずるいし、本当に釣りが好きな人は絶対に使わないと思う。

 そのあとも、あれやこれやの品物について一生懸命説明した。
 商売って大変だ。
「なるほど。どれもなかなか不思議です。面白かったです。でも、私はもっと不思議な物を持ってます」
 な、なんですって!? それは聞き捨てならないわね!
 不思議なコレクションで私にかなう人なんて、この世に存在するはずないのよ!
 生意気な小娘ね! などと思いながら
「まあ。そんな不思議な物をお持ちとは、おみそれしました。ぜひ1度拝見してみたいものですわね。ほほほ」
 笑顔をひきつらせながら応じた。
「わかりました。では明日の晩、サレーカさんと一緒に、ぜひうちに来てください。たくさん御馳走します。それからすごいものを見せてあげます」
 ニンバンダは屈託のない笑顔でそう言った。
「ちょっと、イェラ。恨むからねー?」
 思わぬことで招待の巻き添えになったサレカさんがそんなことを言って私を睨んだ。
 でも私にだって譲れないプライドというものがあるのだ。
 ≫ 第23話「四期遣使の屋敷に招かれました」

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