掃除と料理と、お買い物

≪ 第3話「ヤゴイ家のお嬢様」

第4話 掃除と料理と、お買い物

 カーベ(1月)の31日。お店の定休日。世間は普通の日。
 本日はお友達を晩餐にご招待。あまり気乗りしないけど。
 私は午前中から市場で買出しに走り回った。
 たくさんの荷物を両手に抱えてお店の戸口を潜る。
 店舗の奥にある階段を上ると方形のバルコニーに出る。ここは1階の屋根の一部を改装した所だ。ここから改めて扉を開けて応接間に入る。
 応接間の東側にまた扉があって、その向こうに簡単な炊事設備を置いた食堂がある。古い家を改装したとき、2階の一部をバルコニーに変えたうえに応接間を広めにとったので、私的空間は本当に狭くなってしまった。

 椅子が2脚しかないわ。どうしましょう。
 小さな丸い食卓に荷物を置きながら、傍に置かれた2脚の椅子を眺めながらそんなことを思った。寝室から椅子を1脚持って来て並べてみる。もちろん形が違っている。
 あらまあ。かなり見栄えが悪いわ。
 高価な家具調度を揃えた応接間とは雲泥の差だ。応接間を経由して、この部屋に通すわけだから、かえって悪目立ちするだろうな。
 もともと人を招くことなど想定していない場所なのだ。
 店の改装と内装に費用が掛かり過ぎて、自室まで手が回らなかった。
 お嬢様たちの審美眼を壊してしまいそうな粗末なお部屋。

 いやだなあ。やっぱり断ろうかしら。
 仕方ない。代わりに応接間を使うしかないわね。
 早めに料理を作って、すべてこちらに運んでしまう。
 デザートやお酒も全部。
 いえ確か、お酒はサレカさんが持ってくるって言っていたわね。
 2人が来たら、絶対にこの扉を開けない。絶対に。
 お手洗いはどうしようかしら。
 実はこれ、改装後に気づいた大失敗。
 お手洗いは、私の寝室か、1階の事務室の横にしかない。
 応接間に招いたお客様に1階まで案内して気まずい思いをしたことがある。だからといって、私の寝室に通すわけにも行かないし。いずれまた改装する必要があるのだけど、その場合、お手洗いの部分がバルコニーに張り出す形になるわね。みっともないことこのうえない。

 いいえ。今はそんな先のこと、どうでもいいの!
 今晩のことを考えないと。
 2階のお手洗いは故障中とか言って乗り切ろう。
 ごめんなさいね、サレカさん、メイモアさん。
 そうと決まったら、早速お料理に取りかからなきゃ。
 お料理は本当に苦手なのよ。なるべく失敗しそうにない献立を選んではいるけれど、どうしても不安が残る。
 そんなこと言っていられない、手を動かさないと。
 あ。応接間の掃除はどうしよう。ええい、とにかくお料理が先ね。
 私は段取り悪く必要以上の時間をかけて料理の下拵えを終えた。
 お肉は直前に焼かないと。
 野菜と豆のスープ、鯉の燻製、羊の香草焼。
 あと、デザートに市場で買ったアイスクリームを用意してある。
 普段なら、どれか一品あれば十分なのに。
 鯉は市場で勧められるまま買ったけど、初めてなのよね。
 土地の人は淡水魚をよく食べる。亀も食べる。

 忘れてた! ファテがないわ!
 この国の人たちは、小麦を練って薄く延ばして焼いたファテと呼ばれる物を必ず夕食に添える。つまり、大事な主食。今から用意していたら間に合わない。そもそも作り方を知らない。必要な釜もない。ないないづくしだ。
 パンを焼くように、オーブンで焼いてみたらどうかしら?
 ううん。おかしなことは、やめておこう。後でもう1度、市場に行くしかない。
 市場なら焼いたファテを扱うお店が何軒もあるわ。

 さあ、次はお掃除、お掃除。
 終わった、終わった。あとは食器とグラスを用意して ……
 ああ、お皿落とした!
 もう! 余計な仕事が増えちゃった!
 破片を片付けて、それから市場へ大急ぎ!

 丘を駆け下りて市場へ向かい、また全力で店に戻る。
 どうしてこんな日に、車を借りておかなかったのかしら。
 私はぜいぜいと息を切らして応接間の寝椅子にへたり込んだ。
 我が家に人を招待するなんて、2度としないでおこう。
 小鳥の像が「ちちち」と鳴いた。
 いらしたわ。出迎えないと。

 ≫ 第5話「ここから先は立ち入り禁止!」

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