文明の転移点に関する考察(古代期の終焉)

文明の転移点

 古代、その星には様々な呼び名が与えられていた。フォウ、プリアス、テファ、ラハギ …… 。今は、古代末期の最も力ある民族の言葉に敬意を表して、ラハギと呼ぶことにする。ラハギを廻る惑星も同じ言語で記そう。ゼノン、アルケア、デキア、ルバラ、ルローウィア、ゴッヘル、ラクシエル、グルニダ、ステプト、ユゴー、ミアカ。これら十三の惑星に今は失われし古代文明が栄えた。

 星系文明を築く以前、すなわち人類が母なる惑星オベラに暮らしていた時代を特定するのは難しい。だがアルケアを出て、星系文明を築き、やがて終焉を迎えるまでの期間は四百年を超えないだろうというのが、考古学者の間で一致した見解である。人類が「電気」を発明してから古代末期までを数えても、七百年を超えないという。このタイムスケールは現代の我々にはぴんとこないかもしれない。私たちは千年前の人々とほとんど変わらない暮らしをしている。二千年前の人々との相違点を見出すのも難しいかもしれない。

 しかし人類の歴史には 文明の転移点 ともいうべき急速な進歩の時代を迎える時がある。あらゆる分野で新発見が相次ぎ、人々の生活様式のみならず、思想や価値観までも変えてしまう時期だ。
 実際、この時代に非常に重要な、いくつもの発見がなされている。双子の兄弟レブリダらによる相対性理論、奇才パケ・トゥアによる量子力学、エネルギー革命を起こした核融合、人体改造やクローン人間など生命の在り方そのものを変えた遺伝子工学、星系文明を支えた宇宙工学 …… 。
 

エネルギー革命

 最近では三千年ほど昔、ISC3000年代末期がこの転移点であったという人もいる。核融合からブラックホール式への「エネルギー革命」が起こり、人類の生活圏、半径およそ八百光年を端から端まで四十日ほどで航行できるようになり、海外貿易は活発になり、船は生活圏を遥かに越えた星系へ探検家を運んだ。惑星開発の速度も飛躍的に向上し、恒星から遠く離れた極寒惑星の軌道を人工太陽が周るという、「天動型惑星」まで登場した。いわゆる「大航海時代」である。それまで航行エネルギーであった核融合装置は超小型化され、車やバイク、家庭用発電など生活レベルまでおりてきた。
 しかし、古代期の人々はそれ以上の劇的な変化を経験したのではないだろうか。ひとまず、人類がオベラの外へと足を伸ばし始めた時代から語ろうと思う。
 

二つの月

 アルケアにはオベラとファーガという二つの月が存在する。オベラは小さいが母惑星に近い軌道を回り、ファーガは大きいが遠い軌道を回るので、地上からの見た目にはほとんど同じ大きさに見える。私は研究のためオベラに十日ほど滞在したことがあるが、幸運にも晴天で、二つの月が同時に見える時期だった。確かに大きさはほとんど変わらないのだが、毎晩空を眺めていると、オベラの方がずっと速く移動して、ファーガを引き離していく様子がわかる。これはもちろん、より近い軌道にある物体の公転速度は速くなるという単純な物理学の法則によるものだが、オベラに住む大昔の人は、相当に早い段階で、オベラとファーガの遠近を知ることができたのではないだろうか。海辺に暮らす人々の生活に関わる潮汐作用も、オベラの満ち欠けの方が強く関係していることに気づいただろう。

 人類が最初に到達した天体も当然オベラであった。もしオベラがなく、遥か遠くのファーガ一つしかなかったとしたら、人類の宇宙への進出はずっと遅れていただろう。人類はオベラからファーガへ、そして外惑星アルケアへと、順調に到達距離を伸ばしていった。やがて探検するだけでなく、地下やドームの都市を造り、さらに遠くの惑星に至るための前線基地として利用した。やがてそれらの都市で人口が増加し、少しずつだが余剰生産も生まれ、文化的にも成熟していった。しかし、抱えられる人口に上限はあるので、出生はかなり厳しく制限され、閉塞感も加わって、市民のストレスはかなり強かったようである。それを緩和するため、多くの市民が退廃的な娯楽や宗教に身を委ねるようになっていった。星系文明全盛期になると、都市間、惑星間の移動も楽になり、ストレスも軽減された。
 

失われた母星

 一つの強大な帝国と、十四の小国が形成する自由主義国家の共同体、さらに数十の中立諸国家。それらの国々はオベラを含む十三の惑星を、複雑な国境線で分割していた。
 大都市バニバレウク、モアガの要塞、軌道エレヴェーター、ハプテルの大神殿。あらゆる惑星や衛星に荘厳な建造物が立ち並び、権力者や富める人間は、豊かさを享受した。一方で、欲望に彩られた経済は貧富の差をますます大きくし、退廃的な娯楽や宗教は人の心を蝕み、帝国と共同体の間で頻発した紛争は何百万人もの難民を生んだ。

 両陣営の対立は、母惑星アルケアで最も深刻な状態にあった。すでに百億を超える惑星人口を支える資源は存在しない。
 最初の引き金を引いたのは共同体だった。宇宙への玄関口である四つの軌道エレヴェーターを占拠するために、赤道上の中立帯に軍を侵攻させた。ただちに帝国軍も赤道帯に侵攻し、軌道エレヴェーターを巡って激しい戦闘が行なわれた。星系中のあらゆる惑星に戦火は広がった。やがて軌道エレヴェーターが崩れ落ち、星系内の主要都市のほとんどが核の炎で包まれた。そして母なる惑星はついに失われた。
 

古代期の終焉

 戦火の中、四つの小惑星が星系を飛び立った。それは遥か彼方の星系を目指す大型の有人恒星間宇宙船であった。やがて四隻のうち、ただ一隻が一つの惑星に辿り着く。アルバイル星系第一惑星ベヒストゥーン。生命こそ存在しなかったが、豊かな海を湛える惑星。綱渡りのような方法ではあったが、人類はかろうじて絶滅を回避した。古代期は終わり 中世期の幕開けとなる。

スポンサーリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)