二都の古城ジャリー・モマー

≪ 第51話「お嬢様が家出をしました」

第52話「二都の古城ジャリー・モマー」

 そこは、まさに古城と呼ぶに相応しい鄙びた場所だった。
 くすんだ灰褐色の城壁は垂直に掘り抜かれた深い濠にぐるりと取り囲まれていて、城門に至る道はその濠にかかる石橋だけだ。
「ずいぶんと古いお城ね。どういう目的で建てられたのかしら」
 石橋を渡る途中でサレカさんに尋ねてみたけれど、
「さあ。よく知らない」
という素気ない答えが返ってきたので、自分で適当に推測してみることにした。

 二都スクリタは芸術都市とよばれるだけあって他の月から訪れる観光客も多い。外港ヤチェダは繁栄の源であるけれど、万が一にも外敵に占拠されれば、敵の橋頭堡と化してこの町を脅威に晒す両刃の剣だ。そういう事態に備えて建てられた城なのではないだろうか。この城は町の北東に備えられている。城門の反対側には、籠城に備えて国都から直通する物資輸送路が引かれているかもしれない。とはいえ、軌道防衛力の増強にともなって、そのような危険性も低くなり、この城は無用の長物となってしまったのだろう …… 当たっているかもしれないし、外れているかもしれない。家に帰ったら、たまには歴史の勉強でもしようかな。

 石橋にも、また城門をくぐった先にも、色々な人が出入りしていた。
 ただ、なんというか、どうも一風変わった人ばかりが目についた。
 中庭には大声を張り上げて演説の練習をしている若者がいた。
 城内の通路では呼び止められて、
「垣根を超えよう! 民族の団結を訴えよう!」
と書いたパンフレットを手渡された。思わずサレカさんと顔を見合わせて一緒に溜息をつく。私は通り過ぎる人の中から、比較的まともそうな若者を見つけて声をかける。
「ルクアトブという人を探しているんだけど」
と尋ねると、
「ルキ? あんたたち、音楽派か?」
と探るような視線で私たちを見つめる。どうやらルクアトブとは派閥が違うようだった。よくわからないけど。
「何派でもないけど、とにかく彼に用があるの」
「この先を真直ぐ進んでエレベーターで地下7階まで下りな。でも音楽派はおすすめしないね。国に平和をもたらすには瞑想がいちばんだ」
 彼はそう言うと、目を閉じて何やらぶつぶつ語りだしたので、私たちは急ぎ足で通路を進んだ。

「お・れ・はー! メイモアを、あ・い・し・て・るー!」
 エレベーターで地下7階に下りると、壁を震わすほどの激しい歌声が城内に木霊していた。私たちが広間に駆け込むと、汗だくでギターを掻き鳴らしながら絶叫するルクアトブと、その仲間たちの姿があった。メイモアさんの姿は見えない。ルクアトブは歌に夢中で私たちに気づかなかったけど、スキンヘッドの若者がルクアトブの肩に手を置いたので、ようやく演奏が中止された。
「なんだ、あんたたち?」
 スキンヘッドが訝しげな表情で尋ねる。
「メイモアさんを探しに来たの」
「ルキの知り合いか?」
 スキンヘッドはルクアトブのほうを振り返る。
「ああ、俺の歌に魂がないって指摘した女だ」
 ルクアトブはギターを置いて、複雑な表情でこちらを見つめる。
「な、なにい!?」
 スキンヘッドは、こちらへ一歩近づいて凄んでみせるけど、もちろん、こんな男など怖いはずもない。
「いいんだ、ゴドレバ。今思えば、確かにあれは俺の歌じゃなかった。俺としたことが、バテアト卿に気に入られようとするあまり、丘の上ふうの、ゆるい歌をうたっちまった。あんなのロックじゃない。どうかしてた。でも今度こそ修業し直して、本物の歌でバテアト卿の心を動かしてみせるぜ」
「おお、その意気だ!」
 ゴドレバと呼ばれた男は嬉しそうにルクアトブの肩をばんばん叩く。
 まさか、さっきのひどい歌を披露するつもり?
 今度こそ殺されるわよ。
「とにかく、メイモアさんを連れて帰るから、居場所を教えてちょうだい」
「メイモアは、この城で暮らすと言っているよ。もうあんなひどい父親のいる家には帰らないってさ」
 頭を青く染めた女がそう言った。
「とにかく、メモアと話をさせて!」
 サレカさんがそう頼むと
「メイモアなら、地下5階の小部屋で休んでる」
 ゴドレバがそう答えたので、私たちは急いでまたエレベーターに戻った。

 ≫ 第53話「駆け落ちごっこ」

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