車で国都に帰りましょう

≪ 第35話「お出かけしましょう」

第36話「車で国都に帰りましょう」

 そろそろ家に帰ろうと思ったとき、ふとあることに気づいて「しまった!」と叫んだ。
「どうしたの?」
 セア・エットが目をぱちくりする。
「充電!」
 私は転送装置を指差すと、モックたちが一斉にそちらを見る。
「うっかりしてたわ。充電に丸一日かかるんだった」
 私は思わず額を手で押さえる。ここは月面の孤立した集落なので町と結ぶトンネルも列車もない。モックたちはシャトルを使って移動しているけど、それを借りるわけにもいかない。
「 …… 車を貸してあげようか?」
 プット君がそう提案してくれた。

 私たちはモックたちに別れを告げて車に乗り込んで宇宙船を離れた。私は操縦桿を握って月面の上を滑空する。
「あれはアギルねー。あっちはタンツァねー」
 セア・エットは窓越しに空に浮かぶ他の月を見ながらそう言ったので、私も顔を横に向けて自分の故郷をちらりと眺めた。でもあの月に自分の帰る場所などない。そう思うと微かな感慨も消え失せてしまう。
「今日はバハシェトの月は見えないのねー」
 セア・エットは少し悲しそうな顔でつぶやいた。
 9つの月は各々がヤブゴナの周りを公転しているから、その時々によって空に浮かぶ月の数は異なる。彼女はバハシェトの月を支配するスカヴア皇国のどこかに監禁されているはずの姉妹たちのことを想っているのだろう。

 ナビゲーション画面に国都を示すマーカーが映し出された。目視でも月面から地下都市へつながる通路へのゲートが見える。私はナビに認証指輪をかざして識別番号を送る。
「車体情報および個人情報確認。第1シールド解除」
 通路の自動管制システム『アーテル・ジュジー』からメッセージが届き、目に見えない空間シールドが解除される。車はゲートを通過して地下通路へ滑り込んで行く。
「通過確認。第1シールド閉鎖。第2シールド解除」
 何台もの車が高速で飛び交う国道に入って南へ向かった。

 第37話「人相の悪い男たちがいました」

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