ロボットを買います

≪ 第32話「部屋に戻りなさい!」

三都タンボルクアー地図

第33話「ロボットを買います」

 暦はマカ(4月)を迎えた。三都タンボルクアーは工業都市。国都から通じる地下道を抜けて東の高台に出ると、碁盤割に区画された街並を一望できる。中央を走る大通りを挟んで、右手に工場地帯、左手に電気街や商店街が広がる。住宅地に割り当てられた土地は北西の僅かな部分だけだ。周辺から就労者を集める町で、国都からもたくさんの人が通勤している。

 大通りを直進、途中で左折して電気街へ入る。ここまでは迷うこともなかったけれど、なにしろ初めて訪れる町なので、どの店を覗いたらいいのか分からない。

 目的はロボットの購入。私が応接間でお客様を接待したり、用事で店を空けたりしている間、簡単な応対ができるぐらいの物で十分だ。ただし、従業員を雇うより安く上がらなければ意味がない。中古品を狙って、少し怪しげな店が立ち並ぶ区域に入って行く。
 当てずっぽうで一軒の店に入ると、咥え煙草の店主が機械いじりの手を止めて、
「何か用か?」
 しゃがんだ姿勢のまま、笑顔一つ見せずにこちらを睨みつけた。
 あら、無愛想だこと。でもこういう雰囲気何だか懐かしい。
 私は手短に用件を伝えた。
「ないね。うちで扱ってるのは土木か農機だ」
 素気なく答えて、また作業に戻る。
 随分と使い古された多脚農機と格闘する男を尻目に店を出て二軒目に入った。

 迎えたのは、ひょろりと背の高いロボット。
 まあ。ロボットがロボットを売っているわ。
「何かお探しですか」
 彼は機械音を立てながら大きな両目を細める。
 左右の手に六本ずつある細長い指は複雑な動きを見せている。
「接客のできそうな物ないかしら。丁寧な会話と簡単な勘定ができれば十分よ」
 私がそう伝えると、彼は首を上下に動かしながら思案し、
「あります」
 細い指を1本立てて答えた。
「ベス・ク・エント(あなたにぴったりのものが)。ヴィナモレー45の製造ですが、まだまだ動きますよ」
 45年ですって? 今年は83年よ?
 いくら何でも古すぎると思って断ろうとしたけれど、
「お待ち下さい」
 彼は店の奥に行ってしまった。
 ややあって、彼は1台のロボットを連れてきた。
 直立歩行に問題はなさそう。
 小太り体型で、背は私より頭一つ低い。手の指は3本ずつ。
「シェムタルだ。よろしくな」
 女の声でそう言った。なんか訛ってるけど?
「いいえ、結構」
 私はきっぱり断った。お店の雰囲気に全然合わないし。
「んなこと言わねえで、買っておくれ。おら絶対役に立つから」
 彼女は必死だった。
「元々は何をしていたの?」
「最初は農区だ。種蒔きも収穫もやった。そのあと国都の市場で働いた。呼び込みは得意だね。あの時代は良かったな。おらが一番、輝いてた頃だ」
 彼女は懐かしそうに答える。
 私の店で呼び込みなんてされてたまるもんですか!

「さよなら」
 踵を返して去ろうとしたところ、彼女はタックルするように私の足に縋りついてきた。
「見捨てないでおくれよお。お客さんに買ってもらえんかったら、おら、このお店で錆びついちまうだよ。どうか哀れと思って、お願いだ、お願いだ」
 彼女は馬鹿力で足を掴むものだから、私は思わず「痛い!」と叫んでしまう。
「離してちょうだい!」
 私は彼女の手を振り払おうとするけれど、彼女はまさに命がけという形相でしがみついて離れない。店主も慌てて引き離そうとするが、彼女が手を一振りすると後ろに弾かれて尻餅をついた。
「わかった、わかったから。離してよ、痛いってば!」
 私が叫ぶと、ようやく手の力が緩んだ。
「買ってくれんのか?」
「買わなきゃ殺されるでしょ! ひどい押売だわ!」
 私は舌打ちをして
「いくら?」
 と訊くと、
「3万8000ミラカ」
 店主が答えた。
「3万ミラカ! それ以上払うつもりないから!」
 私は腰の刀の鞘に手をかけて気合を込めて叫ぶと、さすがの強欲店主も、
「ジ、ジェ・ポーラン(取引成立)」
 と素直に応じた。気取ったタンツァ語が私を一層苛々させる。店主が支払い画像を宙に出し、私は右手の認証指輪を所定の位置に押した。
「バッサ・ク・エント!」
 私は汚い罵り言葉を吐き捨ててから、シェムタルを従えて店を出た。

 ≫ 第34話「性格が合わないようです」

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