独りの食事、独りの就寝

≪ 第1話「看板を掛けました」

第2話 独りの食事、独りの就寝

 燻製肉に野菜を添えただけの簡素な食事を食卓に置く。
 一人きりの食事というのは、この世で一番悲しいことの一つかもしれない。蝋燭の儚い灯りが照らすテーブルで、フォークを人参に突き刺しながら物思いに沈む。旅暮らしは厳しかったけれど、いつも傍に仲間がいて食事時はうるさいぐらいに賑やかだった。安酒場の喧騒も今となってはとても懐かしい。
 皆、どうしているのかしら。
 戦っているのかな? それとも食事中かしら? 寒空の下、寝袋を寄せ合って一日の疲れを癒しているのかもしれない。
 追憶を相伴に食事を少しずつ口に運ぶ。

「あの妖精さん、どうしているのかな」
 私は卵を抱えた1羽の妖精のことを思い出してつぶやいた。
 強い眼差しをもつ小さな妖精さん。
 この世界で最も小さな種族リームシュペエル。
 おそらくまだ成体になっていなかったと思う。
 人間の年齢で言えば、15か16ぐらい。
 彼女と卵を護ることが、私にとっての最後の仕事となった。
 他に手はなかったから、こちらの世界とは永劫に交わることのない異界へ送り出すしかなかった。彼女はこれから言葉も習慣も、積み重ねた歴史さえ異なる世界で生きていかなければならない。全ては私の過信と油断が招いたことだ。だから私は引退を決意した。でも心のどこかではダッシィマが止めてくれることを期待していたのかもしれない。でも彼は何も言わなかった。彼にとって私はいったい何だったのだろう。

 独りの食事のあとは、独りで就寝。
「うーん」
 寝返りを打ち、隣にある腕を掴もうと両手を伸ばす。
 けれども手は空を切る。
 そこにあるはずの逞しく傷だらけの腕はない。
 頭の中では、こんなに鮮明に傷の一つ一つを再現できるのに。
 幻の刀傷を指先でなぞってみる。
「ダッシィマ?」
 涙声で呟いてみる。
 返るはずのない言葉を期待して。
「馬鹿みたい」
 強がるようにつぶやいて、また寝返りを打つ。そして瞼を閉じて朝を請う。

 ≫ 第3話「ヤゴイ家のお嬢様」

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